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会社と従業員の関係は、社会や人々の生活の変化によって移り変わってきました。日本企業のリーダー層は数十年前は団塊の世代(※1)が中心でしたが、今や団塊ジュニア(※2)やミレニアル世代(※3)へ世代交代しています。従業員側も労働人口の減少や雇用形態の多様化など、大きな環境の変化が訪れています。いい関係であり続けるためには、お互いの求めるもの・求められるものに意識を向けることが必要です。
ではパーパス経営は、日本社会のどんな変化に伴い必要とされるようになり、これからどんな役割を果たしていくのでしょうか。ここでは戦後から現代に至るまでの歴史を振り返りながら考えていきます。
パーパス経営とは
会社経営におけるパーパスとは、企業や組織・事業の存在する理由や意義を指します。「なぜ・何のために自分たちの企業があり、事業があるのか。社会の何の課題を解決しようとしているのか」を言語化したものと言い換えることもできます。そんなパーパスを企業が社内外に明示し、パーパスを軸に経営・事業・組織づくりを進めていく考え方を「パーパス経営」と呼びます。
※1:1947年〜1949年生まれで、第一次ベビーブームに生まれた世代。突出した人口ボリュームが特徴。
※2:1971年〜1974年生まれで、 団塊の世代の子ども世代。第二次ベビーブーム世代とも呼ばれる。
※3:1981年~1996年生まれで、2000年代になってから成人した世代。
1950年〜 戦後の急速な復興と画一化された国民性
ご存知の通り、第二次世界大戦後の日本の経済成長は目覚ましいものでした。
<高度経済成長期の日本>
・欧米に追いつけ追い越せの風潮
・重化学工業を代表とする重厚長大産業の発展や、政府が特定の産業を保護し、過度の競争を避けて産業を育成・成長させる護送船団方式で急成長
・高度に統制された製造業は「ものづくり」の日本と謳われ、世界から見本にされる存在へ
そんな当時の「会社」に目を向けてみると、それを実現する年功序列・終身雇用制度が機能していました。一度勤めた企業で永久就職するのが当たり前の価値観でした。平均値を高めるための画一的な教育は、当時の社会を発展させる意味で高度なシステムだったと評価できるかもしれません。
また、マスメディアは十分過ぎるほど社会への影響力を持っていました。特にテレビは誕生して以降、年齢を問わず急速に人々の生活へ浸透していきました。限られたメディアから与えられる情報により、多くの人が似たような価値観を形成していったのです。
1980年〜2000年代 インターネットの台頭がもたらした多様性
それが大きく変わるタイミングが来ます。1980年代、インターネットの出現です。
<インターネットがもたらした変化>
・一方的に与えられる情報ではなく、自らが欲しい情報に簡単にアクセスできる
・SNSの普及により、自由に個人が発信者となれる社会が到来
・サブカルチャーが市民権を獲得し始める(例:オタク文化の台頭により、電気街の秋葉原が、世界のAKIHABARAへと変貌を遂げた)
これまでの画一性から一変し多様性が認められる時代が訪れると、「会社」にも変化がおきます。その一つに働き方の多様化があります。バブル崩壊により終身雇用制度が崩れ始めると、人々には非正規雇用など、正社員以外の選択肢が増えました。転職も当たり前になり、転職者数は1990年代前半の250万人から、2006~07年の346万人(※)と、大幅に増加しました。人材の流動性が高まり、人材採用に課題を抱える会社も多くなりました。
※下記より引用
内閣府【日本経済2017-2018 職業キャリア形成の変化】より
2010年〜現在 加速する多様性とパーパス
さらにモバイル通信速度の向上などによってデジタルテクノロジーがより一層進化していきます。
<個人を取り巻くインターネット環境の変化>
・個人が容易に情報に触れ、個々人の価値観が先鋭化
・SNSの進化により個人の発信だけでなく、企業や政府の情報伝達のあり方も変化
・AI・ビックデータの進化により個人に的を絞った広告運用などが可能に
このような変化は、先の時代に比較し一層個人の価値観の多様性が顕著に現れる社会へと繋がります。そんな中で「会社」は、より多様性の受容を求められるようになりました。この時期になると政府主導での「働き方改革」の取り組みも始まるなど、一層「ダイバーシティー&インクルージョン」の必要性が各所が唱えられました。その取り組みは、創造性を拡幅する一方で、人材の定着やマネジメントの難易度を高めているとも捉えられます。近年は副業・複業が一般化し、フリーランスとして特定の組織に依存・所属することなく自由に働く人も増えています。まさに、会社にとってピンチとチャンスが隣り合わせの状況です。
組織は人により形成されています。人が多様化するならば組織のあり方もまた多様化していきます。そんな中で今必要とされているのが、パーパスなのではないでしょうか。
企業が多様な価値観を持った仲間を集め、その長所を活かして組織力を最大化する。そのためには、パーパスを明確化して能動的に発信することが大切です。
その結果生まれた共感は組織力を下支えし、多様な価値観と長所が掛け合わさることで相乗効果をもたらしてくれます。
これからの社会とパーパス経営
これからの社会を考えてみても、人々の価値観の多様性は更に加速していくでしょう。そのような社会で継続的に成長する企業を作るには、優れた事業や高い報酬だけでなく、人々を惹きつけるパーパスが不可欠です。パーパスは、いわば北極星。経営・事業・組織などありとあらゆる面で目指すべき方向性を指し示す存在として機能してくれます。
日本社会は既に人口減少時代となっており、これから急速に進んでいきます。実際に労働人口は今後40年間で、7,700万人から4,400万人に激減する(※)と推計されています。こうした時代の中で生き残り、会社を成長させていくためには、パーパスを掲げることで「他の会社との違い」を明確にし、それを絶えず伝え続けることで、社員に「この会社で働く理由」を提供することが重要です。
・自分たちは何者か?
・どこに向かっているのか?
・どうありたいのか?
パーパスを作ることでこれらの問いの答えを出し、自分たちがこの世界に存在する目的が分かる状態になると、思いに共感した社員が、自ら考えて動いてくれるようになります。
そして自分たちの事業がどこに向かっているのかが分かると、発揮されるパフォーマンスにも大きな影響が出てきます。多様性を持った社員一人一人のパフォーマンスが最大化される組織こそが、これからの社会で永続的に成長を続ける企業の条件となるでしょう。
※下記より引用
総務省【白書 29年版 期待される労働市場の底上げ】より