学習する組織とは?本の要約から導入のためのワークショップまで紹介!

目次

学習する組織とは、世界で100万部を出版し、90年代のビジネス界に一大ムーブメントを巻き起こしたベストセラーの経営書です。読んだことのある方も多いのではないでしょうか。

これまで開示が任意であった人的資本の情報開示も2023年度からはすべての上場企業で開示義務が発生します。人的資本経営の取り組みのためにも、「学習する組織」の概念を採り入れて組織のあるべき姿や組織開発で取り組むべき内容を再考してみてはいかがでしょうか。

本記事では、学習する組織を下記の観点から解説します。

・学習する組織で示された「組織のあるべき姿」とは?
・学習する組織を構成する「3つの柱」とは?
・学習する組織になるための「5つの組織開発の指針」(ディシプリン)とは?
・学習する組織導入のためのワークショップとは?

学習する組織とは

学習する組織とは、ピーター・M・センゲが著書『The Fifth Discipline』にて提唱した組織の概念です。1990年代に出版され、日本でも1995年に『最強組織の法則』という邦題で刊行されています。現在では2011年に刊行された完訳版の『学習する組織 システム思考で未来を創造する』が最もわかりやすいでしょう。

センゲが定義した「組織のあるべき姿」とは、管理型組織から脱却し、従業員自らが考えて、行動する組織です。これまでは、経営者だけが戦略を練るために学び、従業員に指示を出す「管理型組織」が多くの企業で慣行されてきました。ただし、これからの変化の激しい時代に対応するためには、従業員自らが考えて、組織の成長や個人の成長のために「自主的に学ぶ」風土を持った組織づくりが不可欠と説いています。

学習する組織の効果

学習する組織の概念は、ユニリーバ、VISA、インテルなど多くの組織で採り入れられ、成果をあげています。学習する組織を目指すことによって、人の成長と組織の発展の好循環を生み出すことが可能です。

例えば、従業員はやらされ仕事ではなく、仕事を任せてもらえていると感じることで、責任感を持って自発的に業務に取り組むようになります。特に変化の激しい時代には、現場の従業員が環境の変化を敏感に察知し、柔軟に適応していくことが求められます。

このように、従業員が自ら考え行動する組織では、個人としても組織としても経験値が溜まりやすく、持続的に成長していきます

3つの柱とは

学習する組織を理解する上で、重要な柱が3つあり、学習する組織を目指す上で必要不可欠です。

ビジョンの明確化

学習する組織では、指示待ちの人間は存在せず、従業員自らが行動します。自主的な行動を促すために最も大切なのがビジョンの明確化です。

学習する組織では、個人として実現したい目標や組織として掲げているビジョンが明確化しています。管理型組織の脱却のためには、従業員全員が同じ目標へ進まなくてはなりません。

組織であればMVVB(ミッション・ビジョン・バリュー・ビジネス)の策定や浸透のための取り組み、個人であれば1on1でのキャリア面談などを通じてビジョンを明確にする必要があるでしょう。

複雑性の理解

複雑性の理解とは、物事の仕組みやシステムを把握し、事象の本質を理解することです。

1つの現象にもいくつかの要因が複雑に関係している場合があります。学習する組織の人材は広い視野を持ち、事象とその要因を冷静に分析する力が求められます。

複雑性の理解には、後に紹介する「システム思考」が必要不可欠です。複雑性の理解を行うことで、その場しのぎの対策ではなく、根本的な問題の解決が可能になります

共創的な対話

ビジョンの明確化と複雑性の理解ができていたとしても、一人の力には限界があります。学習する組織では、それぞれが自律して行動している一方で、組織としてのチームワークも重要視されています。

共創とは新しい価値を「共」に「創」り上げていくことです。自ら考え、自分の意見を持った上で、他者の意見と比較したり、他の意見を取り入れる柔軟性も必要になります

このように「ビジョンの明確化」「複雑性の理解」「共創的な対話」が3つの柱として例えられるのはどれが欠けても、学習する組織として成立しないからです。学習する組織の実現には、バランスよく3つの柱を育てる必要があります。

5つのディシプリンとは

センゲの著書『The Fifth Discipline』の名前の通り、学習する組織を語る上で欠かせない、重要な要素が5つのディシプリンです。ディシプリンとは日本語で指針や規律と訳されます。

3つの柱を紹介しましたが、実際にこのような組織を実現するのは難しいと考えた方も多いのではないでしょうか。学習する組織をつくるためは、5つの指針に従って組織開発を丁寧に行うことが大切です。

以下では5つのディシプリン、それぞれについて解説します。

①システム思考

システム思考とは、物事の本質を把握することで課題解決に繋げる思考方法です。問題を表面的に捉えるのではなく、全体の要素間の相互作用を捉えることで本質を見抜きます。

システム思考の考え方は、氷山モデルで語られることが多いです。誰もがわかる氷山の一角である「できごと」だけでなく、氷山の下の沈んでいる「行動パターン」、パターンを生み出す「構造」、構造の前提にある「潜在的イメージ」までを可視化します。

システム思考は3つの柱の「複雑性の理解」に対応しています。普段からシステム思考を意識することで、物事を点ではなく線で考える癖がつき、ビジョン実現のための道筋も見えてくるでしょう。

②自己マスタリー

自己マスタリーとは、従業員個々人が理想のなりたい姿を明確に描き、実現するスキルです。自己マスタリーは3つの柱の「ビジョンの明確化」に対応しています。

自己マスタリーを鍛えることで、個人としてのビジョンが明確になるだけでなく、理想と現実にどのようなギャップがあるか考え、自ら学習するようになります。

学習する習慣をつけるには労力がかかります。途中で挫折してしまうケースも多いでしょう。持続的に学習する習慣を身につけるには、従業員自身がわくわくする理想の姿が明確になっていることが必要不可欠です。

③メンタル・モデル

メンタル・モデルとは、人間が誰しもが持っている潜在的な固定概念のことを言います。本人が認識していないとしても、無意識下のメンタル・モデルによって物事を考えたり、行動していたりします。

メンタル・モデルが間違った方向に向いている場合は、意思決定の際にも思い込みで行動してしまい、誤った判断をすることもあるでしょう。ただし、メンタル・モデルは改善していくことが可能です。

例えば、自身の行動を振り返る時間を定期的に取ったり、意思決定の際に自分の思い込みだけで意思決定をしていないか振り返る癖をつけることで、自身のメンタル・モデルを理解し、良い方向に持っていくことができます。

④共有ビジョン

共有ビジョンは、自己マスタリーと同様に「ビジョンの明確化」を実現するための重要な要素です。ただし、自己マスタリーが自身のビジョンの明確化に関する要素であるのに対し、共有ビジョンは組織全体のビジョンに対応しています。

共有ビジョンにおいて重要なのは、組織のビジョンがそれぞれの従業員にとって自分ごとのビジョンになっていることです。そのためには、明確でわかりやすいビジョンが策定されていることはもちろん、浸透のための取り組みが必要不可欠です。

組織としてのビジョンが押し付けにならないように、個人が持つビジョンを尊重しつつ、個人と組織のビジョンに整合性を持たせられるかがポイントになるでしょう。

⑤チーム学習

最後の要素はチーム学習です。チーム学習は「共創的な対話」を実現するための要素です。チーム学習において、はじめに取り組むべきは「対話の場を増やす」ことでしょう。

例えば、上司と部下で1on1面談を定期的に実施したり、部署間を飛び越えてランチ会を実施したりなどの企画から始めてみてはいかがでしょうか。

また、チーム学習の強化には次章で説明するワークショップの実施が効果的です。チーム学習に取り組むことによって課題にぶつかった際にそれぞれが学習し、意見交換やディスカッションが活発になる好循環が生まれます。

これら5つの要素を組織開発によって鍛えていくことで、学習する組織へと進化します。

学習する組織になるためのワークショップ

学習する組織になるために取り組むべきポイントはわかったけれど、具体的にどのような行動と取ればよいか疑問に思う方もいるでしょう。

組織開発には、様々な取り組みがありますが、その一つにワークショップがあります。学習する組織をつくるために効果的なワークショップを3つご紹介します。

ビールゲーム

【概要】
ビールゲームは、学習する組織の書籍の中でも紹介されたワークショップです。4人1チームでビールの製造から供給までの流通における4つの役割(小売店、二次卸、一次卸、工場)を割り振り、ビールの発注や納品を毎ターン行うロールプレイング型のゲームです。

【取り組み方】
①各プレイヤーに流通過程の役割を割り振る
②各チームで適切な在庫量を管理し、品切れを起こさないようにビールを流通させる
③ゲーム終了時に在庫や受注残費用を計算し、総費用が最小のチームが勝利

【効果】
ビールゲームでは、自分にとっては最適な意思決定をおこなったとしても、全体としてみると最適な意思決定ではなかったという場面がでてきます。システム思考の重要性やチーム学習の必要性を感じるきっかけ作りとして効果的なワークショップです。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)

【概要】
AIとはアプリシエイティブ・インクワイアリーの略称です。アメリカのデービッド・クーパーライダー教授らによって提唱されたワークショップで「組織の真価を肯定的な質問によって発見し、可能性を拡張させるプロセス」とされています。

【取り組み方】
①発見フェーズ:各々の過去、現在、未来について話し合う
②夢フェーズ:発見フェーズで浮かび上がった「ありたい姿」を深掘りする
③設計フェーズ:「ありたい姿」の実現のために何が必要か話し合う
④実行フェーズ:計画をもとにチームで実行していく

【効果】
AIは共有ビジョンやチーム学習に効果的なワークショップです。AIを通じて、個人としての強みや組織としての強みを再発見できます

アクティブ・ブック・ダイアログ

【概要】
アクティブ・ブック・ダイアログ(ABD)とは、三和研磨工業株式会社の竹ノ内氏が開発した新しい読書手法です。1冊の本を分担して読んでまとめることで、著者の伝えたいことが深く理解できるだけでなく、グループで対話するきっかけにもなります。

【取り組み方】
①本を選定し、それぞれが読むパートを決める
②制限時間を決めて自分のパートを要約する
③要約した内容を発表する
④発表内容をディスカッションし、理解を深める

【効果】
アクティブ・ブック・ダイアログは、チーム学習に効果的なワークショップです。チームで協力する経験ができるだけでなく、社会人として身につけておくべき「論点をまとめる力」や「プレゼンする力」などが身につきます。

人的資本経営・組織開発ならRECOMO

本記事では、学習する組織とはどのような組織かということから組織開発に取り入れるための方法についてご紹介しました。

変化に対応できる柔軟な組織や体制を構築するには、学習する組織の考え方は非常に重要な要素です。今回ご紹介したワークショップは組織開発のほんの一部に過ぎません。

組織開発の取り組みは多岐に渡り、長期的な目線で取り組む必要があります。組織開発について何から取り組むべきかわからない方や現状の組織開発に行き詰まっている方は、株式会社RECOMOの無料相談をおすすめします。

株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。現状の組織の分析から戦略策定、自走化の支援までを行います。

具体的には、以下のようなサービスを提供しています。

・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/自走化支援

外部のパートナーも上手く使いながら、従業員自らが考えて行動できる強固な組織を実現しましょう。

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