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対話型組織開発とは組織開発の手法の1つです。ジャルヴァース・R・ブッシュとロバート・J・マーシャクの共著によって「対話型組織開発」が提唱されました。
これまでの「診断型」から「対話型」の組織開発へと変化する潮流を理解するには、是非おさえておきたい一冊です。
日本語訳されたものが2018年に出版されていますが、600ページを超える本の長さのため、要点だけ知りたいという方も多いのではないでしょうか。『対話型組織開発』では、組織開発についての考え方から具体的な組織開発(対話)の手法までが記載されています。
本記事では、対話型組織開発の著書の中で示された、以下3つの観点から解説していきます。
・診断型組織開発と対話型組織開発の違い
・対話型組織開発のメリット
・具体的な組織開発(対話)の手法
対話型組織開発とは?
概要
対話型組織開発とは「対話による組織内の関係性の変化」を重要視する組織開発の手法です。組織開発は英語で「Oganization Development」なので、しばしば対話型ODと省略されることもあります。
冒頭でご紹介しましたように、ジャルヴァース・R・ブッシュとロバート・J・マーシャクの共著によって対話型組織開発は提唱されました。2009年に『Dialogic Organization Development: The Theory and Practice of Transformational Change』という原題で出版され、2018年には日本語版の『対話型組織開発―その理論的系譜と実践』が出版されたことで日本でも広まりました。
著書では、これまでの組織開発の手法を「診断型組織開発」と定義し、「対話で何が変わるのか?」「対話をどう実践するか?」が示されています。
対話型組織開発のアプローチでは、組織全体で「目的」が明確化され浸透しているため、組織内の意思疎通もしやすく、従業員のエンゲージメントが高まり、変革が継続しやすい組織が実現します。
このような組織体制は、不確実性の高まる現在や未来においては、より重要視されるでしょう。対話型組織開発を深く理解するには、「組織開発とは何か」「対話とは何か」についても理解する必要があります。以下では、それぞれの意味について説明します。
組織開発とは?
組織開発は、組織をより良い方向へ変化させるための取り組みのことを指します。組織開発の範囲は、サーベイによる課題の可視化や戦略の策定から、リスキルや採用活動などの組織強化のための活動まで多岐に渡ります。
経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」でも示された通り、組織開発は事業の成長に直結する取り組みです。
組織開発は、すべて自社内で完結することもあれば社外のチェンジエージェントと一緒に取り組むこともあります。対話型組織開発においては、自社内での組織開発の取り組みとして実施されるケースが多いです。
「対話」という手段を用いて組織を良い方法へ変化させる取り組みが対話型組織開発です。
※チェンジエージェントとは、組織の変革を推進する人材のことです。詳しくはこちらの記事をご参照下さい。
「チェンジエージェントとは?組織開発における役割と導入方法を解説!」
対話と議論の違い
普段よく使われることの多い「対話」と「議論」という言葉ですが、全く意味が異なることをご存知でしょうか。まず「議論」とは、すでに議題(目的)が決まっており、議題を解決するために話し合うことを指します。一方で「対話」とは、そもそもの目的や議論を行うための前提を話し合うことを言います。
議論では、課題を解決させるための論理的思考などが求められますが、対話で求められるのは「共創」です。対話は頭の良い人が一人で作りあげていくのではなく、参加者全員の意見を尊重し、認め合うことが重要視されます。
組織の人数が増えたり、業務が複雑になるほど「組織内での共通認識や前提」を保つのが難しくなり「対話」が必要となります。対話型組織開発では、このように組織全体で共通の目的を対話によって作り上げていくため、従業員にとっても進むべき方向がわかりやすく一枚岩な経営が可能になります。
診断型組織開発との違い
前述の通り、『対話型組織開発』はこれまでの組織開発を「診断型」と捉えて比較しています。対話型組織開発と診断型組織開発の違いを解説します。
診断型組織開発とは?
診断型組織開発とは、「診断」の名前の通り組織の当事者以外が組織を診断/分析し、組織の課題を洗い出す組織開発の手法です。
外部の組織開発の専門家の意見を取り入れることで、自社を客観的に捉えられ、安心して組織開発を実行できます。また、上層部への提言などのプロセスが進めやすいメリットもあります。一方で、現場の納得感が得られないまま進んでしまうケースも多く、やらされ感や不満が募ってしまうこともあるので注意が必要です。
診断型組織開発に取り組む場合は、デメリットが生じる可能性を理解した上で丁寧なヒアリングや組織開発の自走化までを支援する専門家に依頼すると良いでしょう。
対話型組織開発との比較
現場の当事者との意識の乖離が発生しやすいという診断型組織開発のデメリットを解決するのが対話型組織開発です。
対話型組織開発では、課題の可視化や目的の再定義の段階から従業員を巻き込んで行われます。そのため、組織開発を実行に移すタイミングでも前提や目的が理解できているため、従業員の自律的な行動が見込めます。
一方で、対話型組織開発は経営層からの理解が得にくかったり、意思決定がしづらかったりといったデメリットがあります。また、社内に組織開発の専門家がいない場合は、対話型組織開発を導入するのは難易度が高いかもしれません。
「対話型」「診断型」のどちらが良いということはありません。著書内でも「対話型」と「診断型」のハイブリッドは存在し、大切なのは手法ではなくマインドセット(考え方)であると示されています。それぞれのメリットとデメリットを理解し、うまく使い分けていくことが重要です。
対話型組織開発のメリット
対話型組織開発の最大のメリットは、組織内の関係性の質が高まることです。組織内の関係性の質が高まることによって、具体的にどのような効果が得られるのか。「成功循環モデル」と「心理的安全性」の2つの視点でご紹介します。
成功循環モデルとは?
まず、成功循環モデルとは関係性の質が高まることで「思考の質」「行動の質」「結果の質」に良い形で循環していくことを指します。
結果の質や行動の質は目に見えやすく注力されやすいですが、関係性の質は目に見えづらくおろそかになりやすいです。関係性の質が高い組織では情報の共有度合いや本質的な対話や共創が促され、新たな価値創造(結果)に繋がりやすくなります。
対話型組織開発は、このような成功循環モデルを実現することができ、事業の成長に直結する取り組みです。
心理的安全性とは?
心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。対話型組織開発は単にコミュニケーションが増えることで従業員同士の中が深まる施策ではありません。
関係性の質が高まることで、自分の意見を気兼ねなく言えるようになり、心理的安全性の高い組織を育成できます。
心理的安全性が高い組織では、イノベーションが促進され、部署内外のコミュニケーションもスムーズなため生産性が上がりやすいと言われています。
対話型と診断型のどちらの組織開発の手法を取るとしても、対話型組織開発の考え方は重要なので理解しておきましょう。
組織開発で使える対話の手法4選
対話型組織開発の考え方や重要性は理解できたけど、具体的に何をすれば良いかわからない方のために著書でも紹介された組織開発で使える対話の手法4選をご紹介します。
いずれの手法も「ホールシステムアプローチ」という参加者全員の話し合いによって創造的な意思決定を行う方法論をとっています。組織の全員が話し、全員が話を聴くことで、組織の一体感が高まり、共通価値の創造に繋がります。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
【概要】
AIとはアプリシエイティブ・インクワイアリーの略称です。アメリカのデービッド・クーパーライダー教授らによって提唱されたワークショップで「組織の真価を肯定的な質問によって発見し、可能性を拡張させるプロセス」とされています。
【取り組み方】
①発見フェーズ:各々の過去、現在、未来について話し合う
②夢フェーズ:発見フェーズで浮かび上がった「ありたい姿」を深掘りする
③設計フェーズ:「ありたい姿」の実現のために何が必要か話し合う
④実行フェーズ:計画をもとにチームで実行していく
【効果】
AIはビジョンの共有やチーム学習にも効果的なワークショップです。AIを通じて、個人としての強みや組織としての強みを再発見できます。
フューチャーサーチ
【概要】
フューチャーサーチでは、利害の異なる関係者を集めて3日間のコンファレンスを行います。解決が難しい課題について話し合い、目指すべき未来を参加者全員で描く組織開発の手法です。
【取り組み方】
①過去を振り返る:参加者それぞれの年表を共同で作成する
②現在を探究する:組織が抱える課題をマインドマップに落とし込み協議する
③理想的な未来のシナリオを作る:「ありたい姿」について協議する
④コモン・グラウンドを明確化する:共通の意図やルールを確認する
⑤アクション・プランを作成する:コモン・グラウンドに基づいて計画を作成する
※コモン・グラウンドとは、複数人で共有される共通基盤や決まりのこと
【効果】
様々な背景の参加者から、多様な視点の意見を取り入れることができます。また、3日間のコンファレンスで参加者が感情を共有することで、組織の一体感が高まります。
オープンスペース・テクノロジー
【概要】
オープンスペース・テクノロジーは参加者が自ら話し合う内容を提案して主体的に進める対話の手法です。省略してOSTとも呼ばれます。テーマごとに会議室をいくつか準備し、オープンスペースの名前の通り、自由に自分の好きなテーマの対話に参加できます。
【取り組み方】
①マーケットブレイス:参加者からテーマを募集し、共通性のあるテーマをまとめて会議室を割り振る
②セッション:テーマの提起者を中心に対話を実施、途中で他のテーマの会議室に移ることも可能
③ハーベスト(収穫):対話で生まれた気づきやアクションプランをまとめて全体の場で共有する
【効果】
参加者が自主的にテーマの選定から会議の進め方までを決めるので、当事者意識が醸成され、納得感のある合意形成に繋がります。また、オープンな場になることで、参加者も心理的安全性が高い状態で対話に参加できます。
ワールド・カフェ
【概要】
ワールド・カフェとは、カフェでくつろいでいるようなリラックスした空間の中で行われる会議のことです。基本的に4~5人の少人数のグループに分かれ、メンバーを入れ替えながら行います。
【取り組み方】
①テーマについて探求:全体で1つのテーマを選定し、それぞれのチームで話し合う
②アイデアを交換:各チームの代表者以外を他のチームとシャッフルし、同じテーマについてそれぞれの意見を交換する
③気付きや発見を統合:全員が最初のチームに戻り、他のチームで話した内容を共有し、意見をまとめる
④全体で共有:参加者全員で集まり、くつろいだ雰囲気で各チームの意見を共有する
【効果】
少人数での対話なので、自分の意見を言いやすく、全員が対話に参加しやすいメリットがあります。また、リラックスした環境で会話することで普段の会議では出て来ない新しい発見もあるでしょう。
人的資本経営・組織開発ならRECOMO
本記事では、対話型組織開発の考え方や重要性から実践方法までをご紹介しました。「対話型」と「診断型」の組織開発はどちらもメリットとデメリットがあり、うまく使い分けたり組み合わせることが必要です。
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具体的には、以下のようなサービスを提供しています。
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