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『ワイズカンパニー』という本をご存知でしょうか?『ワイズカンパニー』はSECI(セキ)モデルを提唱した『知識創造企業』(野中郁次郎著)の続編です。SECIモデルを知らない方でも「ナレッジマネジメント」という言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
SECIモデルはナレッジマネジメントの手法を体系的にまとめたフレームワークです。
「一部の優秀な人材は成果を上げるけれど、チームとして成果が出ない」
「マニュアルを作成したけど、なかなか従業員に浸透しない」
などの悩みを持つ経営者や管理職の方は『ワイズカンパニー』を押さえておくことでナレッジマネジメントを実践するためのポイントやそれに必要なリーダーシップについて学べます。
ワイズカンパニーとは?
ワイズカンパニーとは、実践知を備えたワイズリーダーが率いる組織のことです。ワイズリーダーとは、知識創造のサイクルを回して組織を成長に導く人材です。
2020年に野中郁次郎氏と竹内弘高氏の共著で『ワイズカンパニー: 知識創造から知識実践への新しいモデル』が出版されました。『知識創造企業』から25年を経て、より具体的な知識創造のサイクル(ナレッジマネジメント)の実践方法が示されています。
『知識創造企業』では、SECIモデルが紹介され多くの組織で導入されてきました。本書の中でもSECIモデルのサイクルを回して継続することが重要であることが示されましたが、サイクルが止まってしまう事例も多くありました。そのため、『ワイズカンパニー』が執筆され、解決方法が示されました。
『知識創造企業』で語られたこと
ワイズカンパニーを理解するには『知識創造企業』で語られた内容が前提になります。
『知識創造企業』を読んだことがある方は下記のページから読み進めて下さい。
「『ワイズカンパニー』で語られたこと」
概要
1990年代の当時の日本は世界の企業時価総額ランキングでも上位5位を独占しており、「なぜ日本の企業は強いのか?」「どうすれば日本の企業のようになれるのか?」という要望に応える形で1996年に『知識創造企業』が出版されました。
上位5位には、日本の製造業や銀行業がランクインしていたこともあり、『知識創造企業』では国内の製造業における製品開発のプロセスが研究され、まとめられています。
本の中で示された日本の企業の強さの秘密の答えが「暗黙知と形式知の相互作用」です。また、暗黙知と形式知の相互作用をフレームワークにまとめたものが「SECIモデル」です。
ワイズカンパニーの内容に入る前に「暗黙知と形式知」と「SECIモデル」について押さえておきましょう。
暗黙知と形式知
日本企業の強さの理由には「知識」があります。『知識創造企業』では、知識は2つに分類できると示されており、それが「暗黙知」と「形式知」です。
暗黙知とは、言葉にできない知識のことで直感やひらめきとも言い換えられます。一方で形式知とは、言葉にできる知識のことでフレームワークやマニュアルなども形式知の1つです。
暗黙知と形式知を正しく理解・活用することによって、ベテラン社員の持つ属人的な暗黙知を他の従業員に共有することや、持続的なイノベーションが可能になります。
SECIモデルとは?
暗黙知と形式知の概念を活用し、知識創造の仕組みを体系化したのが「SECI(セキ)モデル」です。
SECIモデルでは、個人が持つ暗黙知を形式知に変換することでチーム全体の知識として共有できます。ナレッジ・マネジメントという考え方は、SECIモデルを発表したことに端を発しています。SECIモデルを活用すれば、組織的な知識資源を明らかにすることも可能です。
SECIモデルは以下の4つのプロセスで構成されています。また、SECIモデルの「SECI(セキ)」とは以下の4つの頭文字になっています。
①共同化 (Socialization) - 暗黙知の共有
②表出化 (Externalization) - 形式知への変換
③連結化 (Combination) - 形式知の分析
④内面化 (Internalization) - 形式知の自走化
それぞれのプロセスについて詳しく解説します。
①共同化(暗黙知の共有)
知識創造の第一ステップは共同化です。暗黙知とされている知識を他者と共有します。例えば、成績の良い営業人材の現場に同行したりするなどの共通体験をする方法があります。
この段階では、知識を言葉にする必要はなく、感覚として認識できれば問題ありません。
②表出化(形式知への変換)
次に、共同化によって獲得した暗黙知を形式知に変換します。形式知に変換する際のポイントはできる限り数字に落とし込むことです。例えば、成績優秀な営業人材は1日に何件訪問しているかなど数値や言葉に変換します。
③連結化(形式知の分析)
表出化させた形式知を体系的にまとめる作業が連結化です。表出化した段階の形式知はあくまでも1つの要素に過ぎず、いくつかの形式知が連結して社内で共有すべき有益な知識となります。例えば、営業の訪問件数だけでなく、訪問する頻度や顧客への説明の仕方にも形式知が存在するでしょう。
連結化ができると社内のマニュアルも作成でき、効率よく人材育成ができます。
④内面化(形式知の自走化)
最後に、社内の共通の形式知を個人の暗黙知に落とし込む必要があります。マニュアルを作成して終わりではなく、反復練習を繰り返し従業員一人ひとりが自分のものにするまでが知識創造のプロセスです。
このようなプロセスを経て、知識創造が促進され、新たな暗黙知を生みます。SECIのサイクルを絶えず回していくことが重要であると『知識創造企業』で示されました。
『ワイズカンパニー』で語られたこと
ワイズカンパニーでは、SECIのサイクルを絶えず回すことの重要性を再度SECIスパイラルという言葉で提唱し、SECIスパイラルの実践にはワイズリーダーが不可欠とされています。それぞれどのような意味を持つのか解説します。
SECIスパイラルとは?
SECIモデルが何周も回って持続的なイノベーションが起きている状態がSCEIスパイラルです。ここまでは『知識創造企業』でも語られましたが、SECIスパイラルを起こすには「フロネシス」が原動力になることが新たに示されました。
フロネシスとは、哲学者のアリストテレスが提唱した概念です。実践的知恵とも言い換えられます。知恵とは、物事の筋道を立て、計画し、正しく処理していく能力です。実践を通してこのような知恵を育むことでSECIスパイラルを持続できます。
ワイズリーダーとは?
ワイズリーダーとは、フロネシスを持った人材のことを指します。フロネティック・リーダーとも言い換えられます。
状況に応じて臨機応変に判断することができ、価値観やモラルに従って行動できるリーダーがワイズリーダーです。
ワイズリーダーの6つのリーダーシップ
『ワイズカンパニー』ではワイズリーダーの特徴を6つに分類しています。
①何が善かを判断する
②本質をつかむ
③「場」を創造する
④本質を伝える
⑤政治力を行使する
⑥社員の実践知を育む
それぞれの要素の概要や身に付けるためのポイントを紹介します。
①何が善かを判断する
ワイズリーダーは何が善かを見極める能力に秀でてます。自分の中の価値観や倫理観が明確になっていることはもちろん、共通善として組織に共有できる人材でもあります。
組織の中に共通善を根付かせることは大変なことですが、自分自身が常に善を体現することや社内報などを通じて定期的に考え方を発信することで育むことが可能です。
組織に共通善が存在することで、従業員は現場での判断が可能になり、自律した組織の醸成にもつながります。
②本質をつかむ
ワイズリーダーは本質を見抜く能力にも秀でています。本質を見抜く力は洞察力とも言い換えられますが、問題の本質を見抜くことで応急処置ではない根本的な問題の解決に導けます。また、本質をつかむことは問題の解決にとどまらず、相手の意図や本心を見抜くため、コミュニケーションもスムーズです。
本質をつかむためには、物事を注意深く観察する癖をつけることや、クリティカル・シンキングの思考法が有効です。クリティカル・シンキングは意識的に自分の考えを批判的にみる思考法で主観や先入観に捕らわれずに物事を把握できます。
③「場」を創造する
ワイズリーダーは対話のための「場」を意図的に作ります。『ワイズカンパニー』で示された「場」を創造するためのポイントは以下の6つです。
・垣根を作らない
・タイミングを見計らう
・セレンディピティを引き出す
・本音で話す
・共通の目的意識を持つ
・コミットメントの範(はん)を示す
経営幹部から現場の従業員まで垣根を越えて本音で対話できる環境を用意します。セレンディピティとは素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見することです。対話の場でそれぞれに気づきを与えられるようなプログラムを用意できると良いでしょう。
「場」を創造するにはワークショップの活用が有効です。こちらの記事で組織開発で使える対話の手法4選を紹介しているので参考にしてください。
「対話型組織開発とは?すぐに実践できる対話の手法4選を紹介!」
④本質を伝える
ワイズリーダーは本質をつかむだけでなく、伝える能力にも秀でています。『ワイズカンパニー』で示された本質を伝えるためのポイントは以下の3つです。
・感情に働きかける
・わかりやすい比喩
・物語で伝える
言葉に自分の想いを乗せることはもちろん、相手に取ってわかりやすい比喩や感情移入しやすいように物語で伝えることが重要です。比喩を使う際には、多くの人がイメージしやすいスポーツや子育てなどに置き換えるとイメージを持ってもらいやすいです。
⑤政治力を行使する
政治力を行使するとは、人を動かすことです。伝えるだけでは人は動かないため、ワイズリーダーは人を動かす力が求められます。
人を動かすには「相手への理解を示すこと」「自主的な行動を促すこと」が重要です。批判的な考え方をせずに従業員の良い所を素直に誠実に評価してあげることで従業員の自己肯定感が保たれます。また、指示をしてやってもらうのではなく、自分で気づいて行動できるような環境整備などもワイズリーダーには求められます。
⑥社員の実践知を育む
ワイズカンパニーでは自律分散型の組織が採用されており、ワイズリーダーは従業員の自律の支援や環境づくりを行います。
自律分散型の組織とは、従業員自らが意思決定し、自律的な活動で運営される組織です。自分で考える能力が備わっていない従業員であれば行動に移せず、組織全体の生産性に影響してしまう可能性もあるため社員の実践知を育む必要があります。
SECIスパイラルは人と人との相互作用によって上昇するため、組織の全員で実践知を体現できなくてはいけません。
社員の実践知を育むには、メンター制度の導入や階層的構造(ヒエラルキー)が存在しないフラットな組織づくりに取り組む方法があります。
自律分散型の組織の組織について興味をお持ちいただいた方はこちらの記事もご参照下さい。
「ティール組織とは?超自律型の次世代型組織をわかりやすく解説!」
人的資本経営・組織開発ならRECOMO
本記事では、『ワイズカンパニー』及び『知識創造企業』で語られたナレッジマネジメントの具体的な手法やワイズリーダーに求められる6つのリーダーシップについて紹介しました。
暗黙知と形式知を意識してSECIモデルを実践するだけでなく、SECIモデルのサイクルを回して持続的なSECIスパイラルを起こすことでイノベーションが促進され、組織の成長につながります。SECIスパイラルの実践には組織を導くワイズリーダーも不可欠です。
ただし、ワイズリーダーのようなバランスが取れた人材は市場に少なく、自律分散型の組織は運用の仕方を誤ると逆効果となる可能性もあります。
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