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「優秀な社員を昇格させたのに、なぜか現場が重くなる」
「本人も苦しそうで、結局、重要な判断がすべて社長に戻ってくる」
30名から100名規模へと拡大するフェーズの経営者から、こうした相談を頻繁に受けます。期待を込めて送り出したはずのマネージャーが、なぜ育たないのか。
結論から申し上げます。それは本人の能力不足ではなく、会社が「マネージャーの仕事」を定義していないことに真の原因があります。
昇格させた瞬間に「境界線」が消えていないか
多くの会社において、マネージャーへの昇格は「成果を出している」「周囲の信頼がある」「年次的に妥当」といった、プレイヤー時代の延長線上の評価で決まります。
しかし、本来プレイヤーとマネージャーは、求められる「成果責任」の性質が根本から異なります。
- プレイヤー: 自らの実務を通じて成果をつくる
- マネージャー: チームの成果を最大化し、メンバーを通じて成果をつくる
問題は、昇格させた瞬間にこの「切り替え」を組織として明示できていないことです。 肩書きだけが変わり、仕事の中身が変わらないまま現場に放り出される。すると、責任感の強い人ほど「自分の数字も追いながら、メンバーの面倒も見、さらに調整業務もこなす」という無理な構造に嵌まり、疲弊していくのです。
これは、いわば「F1レーサーに、レースに出場しながら監督も務め、さらにピット作業の手伝いまでしろ」と言っているようなものです。これでは、どんなに優秀な人材であっても、そのポテンシャルを維持することは不可能です。

経営者が見誤る「育成」と「丸投げ」の差
マネージャーが機能しない時、経営者が良かれと思って選択するアプローチが、実は問題を深刻化させている場合があります。よくある3つの誤解を紐解きます。
- 「研修」で解決しようとする
役割の定義が曖昧なまま外部の管理職研修を受けさせても、現場に戻れば日々の実務の濁流に飲み込まれます。「何を実践すべきか」という社内の土台(OS)がなければ、学んだスキルを試す場さえありません。スキルは、定義された役割という「型」があって初めて定着するものです。 - 評価基準がプレイヤー時代のまま
「本人がどれだけ売ったか」「どれだけ処理したか」で評価し続けている限り、マネージャーは心理的に現場を離れることができません。会社が口では「管理をしてほしい」と言いながら、給与や賞与を決める評価制度が「現場をやれ」と命じている。この矛盾が、マネージャーから「チームを育てる時間」を奪っています。 - 「任せる」が「投げる」になっている
「判断の基準」や「責任の範囲」、そして「どの会議で何を決定するのか」という運用の設計がないまま任せるのは、権限委譲ではなく、ただの放置です。設計図のない現場を渡されたマネージャーは、失敗を恐れて「結局どうすればいいですか?」と社長にお伺いを立てざるを得なくなります。
放置のリスク:社長が「最終処理装置」であり続けること
この役割の不備を放置すると、組織は静かに崩れ始めます。
まず、優秀な人材から順に潰れていきます。次に、マネージャーが実務に忙殺されることでメンバーへのフィードバックや期待値調整が疎かになり、チーム全体の育成が止まります。
そして最も深刻なのは、「社長依存」がいつまでも解消されないことです。マネージャーが判断基準を持たないため、重要な論点はすべて社長へと上がってきます。30人、50人と人数は増えても、社長がいつまでも現場の火消しに追われ、本来の仕事である「経営」に集中できない。これが会社の成長を阻む最大の壁となります。
解決への3ステップ:組織OSの再設計
RECOMOでは、この問題を「個人の能力」の問題ではなく、「役割のOS(基盤)」の問題と捉えます。

- ステップ1:役割を「成果責任」で再定義する
「何をやるか(タスク)」ではなく、「何に責任を持つか(アウトカム)」を明確にします。「チーム目標の達成」「メンバーの戦力化」「問題の早期発見」など、その役割が担うべき責任を言語化します。
本人が「自分の仕事は作業をすることではなく、この状態を実現することだ」とパラダイムシフトを起こせるまで、対話を重ねる必要があります。
- ステップ2:評価項目を完全に切り替える
昇格した瞬間に、評価の軸を「個人成果」から「再現性・育成・チーム成果」へとシフトさせます。本人が「何を変えれば評価されるのか」を迷わない状態をつくることが不可欠です。
たとえば「自分がいなくても回る仕組みをいくつ作ったか」を評価の柱に据えることで、マネージャーは初めて安心して「現場をメンバーに任せる」ことができるようになります。
- ステップ3:判断のインフラを設計する
役割は、権限と会議体、そして報告ラインがセットになって初めて機能します。どの会議で何を決めるのか、マネージャーが単独で判断できる範囲はどこまでか。このインフラを整えることが、真の意味で「任せる」ということです。
終わりに:マネージャーが機能するOSをつくる
マネージャーが育たないのは、人がいないからではなく、育つ構造になっていないからです。
人材育成に取り組む前に、まず「何を担う役割なのか」という経営設計を固める。30人、50人、100人と拡大する過程で、これまでの「阿吽の呼吸」から「言語化された運用」へと組織OSをアップデートできるかどうかが、成長の分かれ目となります。
マネージャー個人に過度な期待を寄せるのではなく、彼らが機能するための「器」を用意する。それこそが、経営者が担うべき本来の役割ではないでしょうか。
詳細はYouTubeの動画でも話しました。こちらも合わせてご覧ください。
https://youtu.be/AQhxyYvFcgw?si=RZP_9djnAQAegdAz