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「最近の若手は、管理職になりたがらない」
経営者や人事責任者の方々と話をすると、必ずと言っていいほどこの話題に突き当たります。
「そろそろリーダーを任せたい」「次の課長候補として期待している」と声をかけても、返ってくるのは冷ややかな反応です。
「今のままでいいです」
「責任が重くなるなら、専門性を極めたいです」
「プライベートを犠牲にしたくありません」
こうした反応を前に、「最近の若者は責任感がない」「出世欲がなくなった」と嘆く声も聞こえてきます。
しかし、果たして本当にそうでしょうか。
私は、この見方は極めて浅いと考えています。 結論から申し上げましょう。
若手が管理職を嫌っているのではありません。
会社が見せている「管理職という役割」に、未来が見えなくなっているのです。
今起きているのは、若手の意識低下ではなく、管理職という役割の魅力が組織の中で崩壊しているという事態です。
「出世=正解」というOSの終焉
まず私たちが直視すべきは、若手が本当に「何も欲しがっていない」のか、という点です。
ここを見誤ると、すべての対策がズレます。
今の若手は、お金をいらないと思っているわけでも、成長を諦めているわけでもありません。
ただ、「判断軸」がかつてとは決定的に変わっているのです。
昔のように「出世すること自体が名誉」「肩書が上がれば満足」という時代は終わりました。
彼らは極めて冷静に、そして合理的にこう考えています。
「人生を削るほどの責任を引き受けるなら、その先に何があるのか?」
この役割を引き受けることで、自分の市場価値はどう上がるのか。
裁量は広がるのか。人生の納得感につながるのか。
納得できない責任を、無条件で引き受けなくなっただけなのです。
ここを「最近の若者は甘い」で処理してしまうと、企業は採用や育成の戦略を根底から読み違えることになります。
管理職は本当に「罰ゲーム」なのか?
興味深いデータがあります。
実際に管理職に昇進した人にアンケートをとると、「管理職になって良かった」と答える人は9割を超えているのです。
つまり、管理職という役割そのものが、本質的に魅力のない「罰ゲーム」なわけではありません。
実際にその立場に立ち、視座が変わることで得られる醍醐味は確実に存在します。
では、なぜ若手にはそう見えないのか。
それは、彼らの目に映る管理職の姿が、あまりにも疲弊し、報われないものに見えているからです。
彼らが日々目にしているのは、次のような光景ではないでしょうか。
- 絶え間ない会議と、部下からの相談に追われる姿
- トラブルが起きれば真っ先に呼び出され、責任を負わされる姿
- 上からは数字を詰められ、下からは不満をぶつけられる板挟みの状態
- その上、自身のプレイヤー業務も手放せず、誰よりも長く働いている姿
これでは、「負荷は毎日見えるが、リターンが全く見えない」と言わざるを得ません。
意思決定の面白さや、チームで成果を出す喜び、経営に近づく成長実感。
こうした「管理職本来の価値」が、若手の視界から完全に遮断されているのです。
権限なき責任という構造的な歪み
さらに深刻なのは、「責任だけが増えて、権限が増えていない」という構造です。
部下の成果には責任を持てと言われる一方で、採用の最終決定権はない。
評価制度は硬直化しており、自らの意志でメンバーの処遇を変えることもできない。
方針転換ひとつとっても、常に経営の判断待ち。
「決められないのに、責任だけは取らされる」
この構図を、今の若手は驚くほど鋭く観察しています。
上司が「これ、どうしたものかな」と頭を抱え、社内調整に奔走し、最後は現場で頭を下げる。
そんな姿を見て、「自分もああなりたい」と思えるはずがありません。
今の若手にとって、キャリアは「自律」して築くものです。
一社で定年まで働く前提が崩れた今、彼らが求めているのは、「責任に見合うだけの裁量と、それを通じた自身の成長」なのです。
管理職を「なりたくなる仕事」へ再設計する
では、企業は、そして経営者は何を変えるべきなのでしょうか。
私は、組織のOSをアップデートするために必要なのは、次の3点だと考えています。
- 管理職の役割を、ブラックボックスにしない
若手から見て、管理職の仕事はあまりにも「大変さ」だけが透けて見えています。実際には、チームを動かす面白さや、人が育つ瞬間に立ち会える喜びがあるはずです。 マネージャーの仕事を言語化する、あるいはリーダー会議の一部に触れさせるなどして、「管理職の本来の中身」を可視化する必要があります。 - 責任・権限・報酬を、セットで再設計する 「頑張れば報われる」という精神論では、もはや人は動きません。責任だけを渡し、権限も報酬も据え置きでは、なり手が減って当然です。 何を決めてよいのか、どこまで人に関われるのか。若手に「責任を持て」と言う前に、会社側が「責任を持ちたくなるような設計」を提示できているかを問い直すべきです。
- 管理職を「未来を担う役割」に戻す 管理職は本来、現場の尻ぬぐい役ではありません。経営の意志を現場に翻訳し、人を育て、事業の勝ち筋を作る「会社の未来を担うエンジン」です。 この役割に誇りが持てない組織は、中間層から弱体化し、成長の壁にぶつかります。
最後に:管理職になりたい人が減ったのではない
最後にお伝えしたいのは、若手の気質を嘆く必要はないということです。
彼らは、覚悟がないのではありません。
未来が見えない中で、リスクの高い選択を避けているだけなのです。
これは、不確実な時代を生き抜くための極めて合理的な判断とも言えます。
管理職になりたい人が減ったのではありません。
管理職になりたくなる会社が減ってしまったのです。
若手が「あの役割を引き受ければ、自分の人生はもっと豊かになる」と確信できる組織を創ること。
それこそが、これからのビジョナリーカンパニーに求められる、最も重要な経営課題ではないでしょうか。