社長の魅力だけで採用し続ける会社が、30人の壁で崩れる理由

目次

「最近、採用してもすぐに辞めてしまう」
「社長の私と話している時はあんなに熱量があったのに、現場に入ると顔が曇っていく」
「期待して入ったはずの社員から『思っていたのと違う』と言われた」

もしあなたが経営者として、こうした違和感を抱いているのなら。

それは、あなたの「社長としての魅力」が、組織の成長を阻む「罠」に変わってしまっているサインかもしれません。

30人規模。ここは、会社が「社長個人の商店」から「組織」へと脱皮しなければならない、最初の、そして最大の分岐点です。

30人までは、社長の魅力が最大の武器になる

まず誤解を恐れずに言えば、創業期において社長の魅力で人を惹きつけることは、正解です。実績も、ブランドも、整った福利厚生もない会社に誰かが来てくれる理由は、極めてシンプル。

「社長が面白いから」「社長の掲げる夢に賭けたいから」

いわば、社長という人間そのものが最大の商品であり、最強の採用広報です。社長が直接会い、飲みに行き、未来を語る。その熱量に当てられた人が「この人についていこう」と決意する。このエネルギーだけで、会社は20人、30人までは一気に駆け上がることができます。

しかし、ここには見えない落とし穴があります。

社長に惹かれた人は、「社長の近く」を期待して入ってくる

社長の魅力で採用された社員は、雇用契約上は「会社」に入社していますが、感情としては「社長のそば」に入社しています。

  • 「社長の意思決定を間近で見たい」
  • 「社長から直接フィードバックをもらいたい」
  • 「社長の圧倒的な熱量に触れていたい」

20人規模までなら、この期待は満たされます。社長が現場にいて、朝礼で話し、夜は一緒に飲みに行ける距離感があるからです。

ところが、30人を超えると物理的・構造的にこれが不可能になります。社長は経営判断や外部との折衝に時間を割かれ、社員との距離は必ず遠くなる。すると、社員の中に「期待の未返済」が発生し始めます。

「入社前はあんなに熱く語ってくれたのに、入ってみたら社長とはほとんど話せない」
「直接指導してもらえると思っていたのに、現場のマネージャーに任せきりだ」

この「距離の拡大」に組織が対応できていないとき、崩壊の足音が聞こえ始めます。

30人を超えた社員が体験するのは、「社長」ではなく「組織」である

採用活動において本当に恐ろしいのは、会社を良く見せすぎることではありません。

「採用時に見せた景色」と「入社後に体験する現実」がズレていることです。

30人を超えると、社員が日々接する相手は社長ではなく、直属の上司や同僚になります。彼らが体験する「会社」は、社長の熱い言葉ではなく、以下の要素に置き換わります。

  • 現場のマネージャーのマネジメントレベル
  • 不透明な評価基準やルール
  • Slackや会議に流れる空気感
  • 理念が形骸化し、数字だけを追う現場

社長は面接で「うちは理念を大事にしている」「若手に裁量がある」と語るかもしれません。しかし、現場のマネージャーが目先の売上しか見ていなかったり、裁量という名の放置が横行していたりすれば、新入社員の心は一瞬で冷めます。

「社長はすごいけど、現場はそうでもないな」

この冷ややかな視線が、早期離職や組織の停滞を生む真犯人です。

採用の本質は、口説くことではなく「期待設計」にある

ここで、採用という概念をアップデートする必要があります。

採用とは、人を集めることでも、自分たちを飾ることでもありません。

採用とは、候補者に「どんな期待」を持って入社してもらうかを設計することです。

社長の魅力で惹きつけるのはいい。しかし、その魅力を社長個人で完結させてはいけません。

  • 社長の思いを、会社の理念に接続する。
  • 社長の描く未来を、現場の事業計画に接続する。
  • 社長の仕事観を、評価制度やカルチャーに接続する。

「社長が好きだから入る」状態から、「この会社が目指す世界、この組織の文化に貢献したいから入る」状態へ。期待の対象を「人」から「組織のOS」へと移し替えなければならないのです。

30人の壁を突破するために整えるべき「3つの土台」

社長依存の採用から脱却し、組織として選ばれる会社になるためには、次の3つを言語化・仕組み化する必要があります。

  1. 独自の採用メッセージの確立
    「社長が何を目指しているか」ではなく「この会社が社会に存在する理由は何か」を、会社の言葉として定義する。どんな強みがあり、同時にどんな「厳しさ」があるのかを誠実に開示する。
  2. 入社後の「一貫性」ある体験設計
    面接で語った理想が、入社初日のオンボーディング、1ヶ月後のフィードバック、3ヶ月後の評価へと一貫して流れているか。期待値を裏切らない仕組みを作る。
  3. 社長以外が「会社の魅力」を語れる状態
    幹部や現場のマネージャーが、自分の言葉で「なぜこの会社で働くのか」「うちは何を大事にしているのか」を語れるようにする。

社長で採る会社から、組織で選ばれる会社へ

30人の壁とは、単に人数の壁ではありません。

「社長個人の魅力で伸びる段階」から、「組織の理念とシステムで自律的に動く段階」へ移行できるかどうかの壁です。

採用・育成・評価・カルチャー。これらはすべて繋がっています。採用で語った理想が評価制度に反映され、評価される人物像がカルチャーを体現し、そのカルチャーがまた新しい人を惹きつける。この循環が生まれたとき、会社は「30人の壁」を軽々と超えていきます。

最後に、経営者であるあなたに問いを置きたいと思います。

「今、あなたの会社に入ってくる人は、社長がいなくなってもその会社を選びますか?」

人は、社長に惹かれて入社することはできます。
しかし、その人が会社に残り続け、命を燃やして働こうと思える理由は、組織の中にしかないのです。

社長の魅力を「個人のカリスマ」で終わらせるか、「組織のエネルギー」へと昇華させるか。

その決断が、ビジョナリーカンパニーへの第一歩となります。

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