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時代の変化に対応するためのマネジメント手法として、近年パフォーマンスマネジメントが注目されています。人材版伊藤レポートでも提唱された「人的資本経営」のための施策としてもパフォーマンスマネジメントは重要な要素の1つです。
パフォーマンスマネジメントと聞いても、従業員のパフォーマンス(能力)を引き出すマネジメント手法という理解に留まり、具体的な概要や効果について説明できる経営者や人事担当者は少ないでしょう。
パフォーマンスマネジメントを導入することで下記のような組織を実現できます。
・ビジネス環境の変化に柔軟にスピーディーに対応できる組織
・個の可能性・価値を最大限に発揮した組織
・組織内の人間が信頼し高め合う組織
本記事では、具体的にパフォーマンスマネジメントを導入するための方法や導入の効果について企業事例を用いて解説します。
パフォーマンスマネジメントとは?
まず、パフォーマンスマネジメントの概念を解説します。
パフォーマンスマネジメントとは、人事部や管理職が従業員と一緒に目標を考えたり、定期的に目標に対するフィードバックをすることで従業員個人の成長を促し、社員の行動を成果に結びつけるマネジメント手法です。
一方的な評価でなく、あくまでも「従業員の目標達成をサポートする」視点で従業員と対話します。個人と組織の双方にとって利益のある目標を設定することで、組織の目標達成にも寄与します。
具体的に、パフォーマンスマネジメントには下記のような特徴があります。
・他者との比較でなく、個人特性に注目
・過去ではなく、未来に着目
・一方的な伝達ではなく、対話重視
・フィードバックの頻度が高い
パフォーマンスマネジメントでは定期的に上司と部下の間で対話する場を設けます。フィードバックの際には、一方的な評価にならないように上司が部下に対してコーチングをします。従業員の自律を促すように、他者との比較は避けて、個人の特性を組織にどうやって活かすかを「一緒に考える」のがポイントです。
このようなパフォーマンスマネジメントの概念は、1970年代にアメリカのコンサルタントのオーブリー・ダニエルズによって提唱され、その後欧州最大の人材開発協会CIPDが「パフォーマンス・マネジメント」という言葉で提唱しました。
日本では、後述する「MBO」と呼ばれるマネジメント手法が一般化し、近年になって時代の変化に対応できるマネジメント手法として、パフォーマンスマネジメントの重要性が注目されています。
MBOとの違い
MBOとはドラッカーが提唱した手法でManagement by Objectives and Self controlの略です。日本語では「目標による管理」と訳します。
Objectives(目標)とSelf control(自己統制)によってマネジメントする手法で、日本では1990年代から多くの企業で導入されました。
MBOでは、年度当初に管理職と従業員で1年間の目標を設定します。設定した目標に基づき、年度末に従業員を評価します。
MBOでは、評価軸が明確でわかりやすく、従業員の進むべき方向を示しやすいというメリットがあります。ただし、ランク付けに抵抗がある従業員にとってはモチベーションの低下につながったり、年1度の評価では急速に変化するビジネス環境に対応できないのではないかという懸念もありました。
パフォーマンスマネジメントは、MBOと異なり、ノーレイティング(No rating)の概念を採用しています。ランク付けの評価を従業員にするのではなく、上司・部下間のコミュニケーションの頻度を増やして、全社的に従業員をサポート/育成します。
過去の結果を重要視するMBOに対して、パフォーマンスマネジメントでは目標達成までの過程や未来のパフォーマンスを重要視する点が大きな違いです。
パフォーマンスマネジメント導入のメリット
パフォーマンスマネジメントを導入するメリットについて詳しく説明します。
スピード感を持った経営が可能
パフォーマンスマネジメントを導入すると柔軟でスピード感のある組織を実現できます。パフォーマンスマネジメントの特徴の一つである「フィードバックの頻度の高さ」により、外部環境の変化で経営の舵切りが必要な場合は軌道修正がしやすくなります。
前述のMBOによる管理方法だと、1年や半年ごとのフィードバックになることが多いため、軌道修正のタイミングも年単位になってしまうことが多いです。
外部環境の変化が目まぐるしく変わる現在では、このような柔軟でスピード感のある組織育成は必要不可欠でしょう。
適材適所な人材配置が可能になる
適切な人材を適切な場所に配置することは会社の業績に大きく関わります。パフォーマンスマネジメントによって、適材適所な人材配置の見極めも行いやすくなります。
パフォーマンスマネジメントでは、日々の業務内容について話すだけでなく、個人特性に注目したヒアリングを重視します。そのため、対話の中で従業員の性格や強み弱み、モチベーションがあがるポイントなどが見えてきます。
このような従業員1人1人の特性を理解することで、相性の良い人材と一緒に働かせてみたり、強みを活かした業務内容を任せてみるなどの手を打つことができます。
人それぞれ特性は異なるため、柔軟なマネジメントが必要になります。パフォーマンスマネジメントを導入し「従業員と向き合い、従業員を正しく理解する」ことは会社経営においても重要なポイントでしょう。
従業員エンゲージメントの向上
パフォーマンスマネジメントは、従業員のエンゲージメント向上に大きく貢献します。パフォーマンスマネジメントは「従業員の目標達成をサポートする」視点であるため、主役は従業員1人1人です。
上司に決められた目標ではなく、従業員が主体的に目標設定を行うため、腹落ちしやすく「やらされる仕事から自分の成長のために成し遂げたい仕事」に変わります。
従業員エンゲージメントの向上による企業のメリットは、従業員の生産性向上だけでなく、離職率の低下やリファラル採用など、人事面での長期的なコストカットにもつながります。
従業員の主体性を醸成していくことで、目標達成のために自ら学ぶようになります。学び、進化し続ける姿勢が習慣化することで、変化への対応も強くなり、組織力が大きく向上します。
組織内の人間関係が強化される
パフォーマンスマネジメントは高頻度でフィードバックを行うため、自然に上司と部下で対話する機会が増えます。
忙しい中でフィードバックに時間を割くのは大変なことですが、真剣に部下のことについて考えている姿勢を見せることは部下からの信頼獲得にもつながります。
逆の上司側も部下が何に悩んでいて、真面目に仕事しているのかわからないという不安も払拭できるため、双方にとっての信頼構築になります。
業務上で重要視されている「報告・連絡・相談」も部下側にとっては関係値ができていない上司であれば気が引けてしまい、遅延や漏れが起きてしまうこともあるでしょう。
業務で忙しいからこそ、パフォーマンスマネジメントの取り組みで従業員と対話する時間を決めて確保することは組織内の人間関係強化にも重要です。
パフォーマンスマネジメントの導入方法
企業がパフォーマンスマネジメントを導入するためには以下の3ステップを丁寧に進める必要があります。
①実施の目的や意図を共有する
パフォーマンスマネジメント導入前の事前準備として、実施の目的や意図を実施者に共有することが重要です。上司、部下の双方に正しく理解してもらえないとパフォーマンスマネジメント自体がやらされる仕事になってしまい、効力を発揮しません。
企業の成長に必要という点だけでなく、上司・部下それぞれにメリットがある点を丁寧に説明しましょう。
また、フィードバックの頻度はそれぞれの部署の状況によっても適切な回数は変わります。経営層が押し付けるのではなく、パフォーマンスマネジメントを実施する従業員との対話によってパフォーマンスマネジメントの計画を作成しましょう。
状況によっては、部下側への共有は次のステップ②の後でも良いですが、上司側の同意は事前に取っておく必要があります。
②パフォーマンスマネジメントスキルの習得
パフォーマンスマネジメントに取り掛かる前に、実施する上司側の人材が十分なパフォーマンスマネジメントスキルを持っているか確認しましょう。具体的に、パフォーマンスマネジメントに必要なスキルとは「アクティブリスニング」と「コーチング」です。
以下、どのようなスキルか簡単に説明します。
・アクティブリスニングとは?
アクティブリスニングは、聞き役に徹することで、相手の能力を引き出す人材開発の手法。視線や相槌など聴き方を工夫することで相手が話しやすい環境を作ること。
・コーチングとは?
コーチングは「答えを与える」のではなく「答えを創り出す」サポートをする人材開発の手法。「答えはその人の中にある」というコーチングの原則に基づいて自発的行動を促進するコミュニケーションを行うこと。
パフォーマンスマネジメントで十分な効果を得るにはこの2つのスキルを意識することが必要不可欠です。マスターするには長期的な取り組みが必要になりますが、1度セミナーや勉強会に参加してもらい、アクティブリスニングとコーチングの概念を理解してもらってからパフォーマンスマネジメントに取り組みましょう。
③1on1の実施
パフォーマンスマネジメントにおける、上司と部下での対話は1対1が基本です。最初の面談では、目標設定を行います。その後、1ヶ月ごとや四半期ごとなど指定した期間で定期的に目標に対してのフィードバックを行います。
過去の結果について深掘りするのではなく、今後どのように改善していくべきか「フィードフォワード」の視点で対話します。
1on1を実施する前には、議論する内容について簡単にまとめた面談シートを事前に用意しておくとスムーズに進行できるでしょう。
パフォーマンスマネジメントの企業事例
スターバックスコーヒージャパン株式会社
スターバックスでは、四半期ごとにパートを含む全社員に目標を設定してもらい、マネージャーからのフィードバックを行っています。
この対話によってスターバックスとともに成長したいという内発的動機が生まれています。
結果として、スターバックスではマニュアルがなくともドリンクカップにメッセージを入れたり、おすすめの商品を紹介したり、など自発的に従業員が行動する文化が醸成されています。
アドビ株式会社
アドビでは「チェックイン」という人事評価制度を導入しました。チェックインでは、3ヶ月に1回上司と部下が対話する場が設けられ、上司が部下の昇給を決定できる予算も与えられます。パフォーマンスマネジメントと人事評価制度をかけ合わせることで人事評価にかかるコスト削減も可能です。
結果として、アドビではチェックインを導入して以降、従業員の仕事に対する満足度が10%向上し、離職率も過去最低水準まで下がっています。
株式会社博報堂DYデジタル
博報堂DYデジタルでは、MBOによる評価制度を廃止し、2017年より個々の成長にフォーカスした評価制度に変更しました。
この評価制度の変更に伴い、博報堂DYデジタルではすべての管理職に対してパフォーマンスマネジメントの研修を実施しています。
このようにパフォーマンスマネジメント導入の際には、会社が主導して研修制度の実施や管理職の意識改革を行う必要があるでしょう。
効果的にパフォーマンスマネジメントを導入するには?
パフォーマンスマネジメントを導入する際には、実施する従業員に施策の必要性を正しく理解してもらうことや社内研修を実施するなど、事前の準備が必要になります。
業務が忙しい中で、パフォーマンスマネジメント実施の準備や継続的な運用をするのは大変です。
そんなときは、パートナーとなる企業とともにパフォーマンスマネジメントの運用をすることを検討してみましょう。外部からの視点が入ることで、客観的に自社を捉えることが可能です。
株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。サービスの1つである「RECOMO X」では以下のようなサポートを提供しており、経営の根幹に基づいたパフォーマンスマネジメントの支援をすることが可能です。
・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/自走化支援
「RECOMO X」は、一般的な相談に乗るだけのコンサルとは異なり、客観的な視点を持ちながら組織の中に入り込み、二人三脚で組織開発に取り組みます。
組織開発のプロセスは1つずつ丁寧に進めていく必要があり、途中で挫折してしまうことも多いです。上手にパートナー企業と連携しながら、パフォーマンスマネジメントに取り組みましょう。
まとめ
本記事では、パフォーマンスマネジメントを導入するための方法や導入の効果について解説しました。
パフォーマンスマネジメントを導入することで、外部環境の変化に対応できる強い組織を育成することが可能です。従業員個人としても企業としても成長し続けるための施策としてパフォーマンスマネジメントは有効です。
株式会社RECOMOでは無料相談も行っています。パフォーマンスマネジメントの導入や組織課題に不安がある方は、是非お問い合わせください。