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2022年12月時点で、ビジョナリーカンパニーは1巻~4巻とZEROの全5巻が出版されています。各巻500ページ前後あるので、途中で挫折してしまった人や一部は読んだことがあってもシリーズ全巻を読破している人は少ないのではないでしょうか?
ビジョナリーカンパニーの魅力の一つが一流企業の飛躍や衰退の歴史の要点を振り返ることができる点です。シリーズの中では、各所で組織や人材の重要性が説かれており、人的資本経営の重要性が高まる中で、組織開発・人材開発に携わる経営者や人事担当者は一読すべき内容でしょう。
本記事では、忙しくてビジョナリーカンパニーは読めないが、全体像を理解したい方やどのシリーズから読み進めるべきか検討したい方向けに各シリーズの重要な点をご紹介します。
ビジョナリーカンパニーの全体像
ビジョナリーカンパニーとは?
ビジョナリーカンパニーとは、1994年に初版が出版されて以来、5年連続でベストセラーとなった、多くのビジネスパーソンのバイブルとなっている著書です。
著者である、ジェームズ・C・コリンズ(ジム・コリンズ)はアメリカのビジネスコンサルタントでマッキンゼー・アンド・カンパニーなどでコンサルタントを経験しています。
コリンズは「有名な企業がどのように成長し、世代交代を超えて繁栄し続けられるのはなぜか」そこに法則があるのではないかと18社を分析/比較しました。その中にはアメリカン・エキスプレスやソニー、ウォルト・ディズニーなど日本人の我々も馴染みのある企業が選ばれています。
ビジョナリーカンパニーの定義
ビジョナリーカンパニーという言葉の意味についてですが、「ビジョナリー」には先見性や未来志向という意味があります。先見性や未来志向のある企業を選定し、その共通項を紹介しているのがビジョナリーカンパニーになります。
具体的には以下のように定義されています。
“・業界で卓越した企業である
・見識ある経営者や企業幹部の間で広く尊敬されている
・わたしたちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している
・最高経営責任者(CEO)が世代交代している
・当初の主力商品(またはサービス)のライフ・サイクルを超えて繁栄している
・1950年以前に設立されている(設立後50年以上経過している)”
ビジョナリーカンパニーが世界中で読まれる理由
ビジョナリーカンパニーが世界中の経営者や人事担当者に読まれる理由は主に2つで「情報の信頼性が高い点」と「経営の全体像が把握できる点」です。本の中では多くの統計やエビデンスが用いられ、実例で説明されているので読者の腑に落ちます。また、ビジョナリーカンパニーシリーズでは企業の繁栄から衰退までが体系的にまとめられており、経営の全体像が把握できます。
以下がビジョナリーカンパニーシリーズの一覧になります。
・ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則
・ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則
・ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階
・ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる
(ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則)
・ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる
日本では、2021年8月に発売された「ビジョナリー・カンパニーZERO」が最新のシリーズとなりますが、ZEROの名前の通り、コリンズがビジョナリーカンパニー発売前に執筆していた「Beyond Entrepreneurship」という書の日本語訳となります。
また「ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則」については、ビジョナリー・カンパニー2で紹介された弾み車の法則を要約した内容なので、本コラムでは省きます。
各ビジョナリー・カンパニーを要約
ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則
概要
本書では、ビジョナリーカンパニーの定義を満たす18社を選び出し「永続する会社を創るためには」というテーマでまとめられています。結論として、永続の源泉は「基本理念」にあると説いています。
以下、本書の3つのポイントをご紹介します。
基本理念
ビジョナリーカンパニーでは、基本理念は組織にとって不変の主義であって、会社の根本的な存在理由であるとしています。
重要なのは理念をどこまで貫き通しているかで、それは中身より大切であると説明しています。
時を告げるのではなく、時計をつくる
コリンズは「時を告げるのではなく、時計をつくる」という言葉で説明していますが、基本理念の浸透の必要性を説いています。
時を告げる経営者、つまり部下に一方的な命令をするワンマン社長では、いくらカリスマ経営者であっても時代の変化に対応するのは難しいです。
時計をつくる経営者のように、従業員に基本理念を正しく伝え、部下からアイデアが湧いてくるような組織にすることが永続する会社に必要と示しています。
BHAG:社運を賭けた大胆な目標
ビジョナリーカンパニーでは基本理念に合致した、大胆な目標を設定しています。BHAGとは(Big Hairy Audacious Goals)の略で日本語訳だと、社運を賭けた大胆な目標です。
5年から10年のスパンで大きな目標を設定し、挑戦し続ける企業であるべきと伝えています。
ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則
概要
本書では、全米1435社の中から、飛躍的に業績を伸ばした11社を選び出し「良い会社が偉大な会社になるには」というテーマでまとめられています。ビジネススクールでもよく取り扱われる「第5水準のリーダーシップ」や「針鼠の概念」などが飛躍の法則として挙げられています。
第5水準のリーダーシップ
第5水準のリーダーシップは最もハイレベルなリーダーシップ像として位置付けられています。
具体的に、第5水準のリーダーシップとは「個人としての謙虚さ」と「職業人としての意思の強さ」を兼ね備えた存在です。結果が悪かったときには、自分に責任があると考え、成功した時にはみんなを称えるようなリーダーが飛躍している企業には共通して存在します。
誰をバスに乗せるか
誰をバスに乗せるかとは、組織に必要な人材を見定めて、適切な人材を取り入れて不適切な人材とは距離をおくということです。
コリンズは「だれを選ぶか」をまず決めて、その後に「何をなすべきか」を決めるとまで言っており、人材の重要性を説いています。
針鼠の概念
針鼠の概念とは以下の3つの円が重なる部分を深く理解し、行動すべきという概念です。
・自社が世界一になれる部分
・経済的原動力になる部分
・情熱を持って取り組める部分
日本では馴染みの薄い海外の寓話(ぐうわ)の「ハリネズミとキツネ」を例に挙げてるため、針鼠の概念となっていますが、たくさんのことを考えるのではなく本質をついた重要な概念に特化して考えるべきと伝えています。
弾み車の法則
最後にコリンズは継続の重要性を説いています。弾み車とは、動力を伝える回転軸に取り付ける重い車です。最初のうちは重くても何度も回転していくと勢いがつき加速していきます。経営においても同じように最初のうちは重くとも、日々の積み重ねを継続することで成長も加速していきます。
ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階
概要
本書は、ビジョナリーカンパニー2で取り上げられたような偉大な企業であっても、その後衰退する企業がある中で「企業はどのように衰退するのか」をテーマにまとめられています。
具体的には、衰退する過程には以下の5段階があると説いています。
第一段階 成功から生まれる傲慢
衰退の第一段階、つまり衰退の兆候には傲慢さがあるとしています。成功することで謙虚さを失い、第5水準のリーダーシップを取れなくなってしまう経営者が多くいます。
第二段階 規律なき拡大路線
傲慢さから、ビジョナリー・カンパニーの1と2で示された「基本理念」や「針鼠の概念」など規律となるものを忘れ、進むべき方向と異なる方向へ大きく舵を切ったときに組織の衰退は始まります。
第三段階 リスクと問題の否認
第二段階からすでに事業の失敗や人材が離れていくなどの衰退の兆候は現れています。この段階でも本質的な問題を直視できない場合、衰退のペースは大きく加速します。
第四段階 一発逆転の追求
この段階が取り返しのつく最終段階になります。一発逆転の追求ではなく、着実に第5水準のリーダーのもと、規律の文化に戻ることができれば回復の可能性はあります。
第五段階 屈服と凡庸な企業への転落か消滅
失敗を繰り返すため、この段階ではキャッシュフローが悪化し、新たな施策を練ることもできません。この段階でできることは、倒産か売却、もしくは、弱小企業として細々と生き延びるしかありません。
ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる
概要
本書では「不確実な時代の中でも成長し続ける会社は何が違うのか」についてビジョナリー・カンパニーの1や2とは違う視点でまとめられています。
具体的には以下の5点が重要であるとしています。
規律
規律は一貫した価値観やペースを維持するために必要な要素です。規律は組織の成長や必要に応じて変更していくことも可能です。
実証主義
まずは、小さな取り組みからでもいろいろ試してみて、その中から一気にどこに投資するかを決めることが重要とされています。最小限のリスクで投資をすることが可能になります。
危機管理
予想しない危機が起きたときの対応も重要なポイントです。常に余力を持っておくべきで、そのためにもバランスシートは保守的にマネジメントしていく必要があります。
行動基準
従業員1人1人の強い意思や行動基準も重要なポイントです。特に、自分のためでなく、社会のためという視点で行動できるようになると組織力も強化されます。
人間主義
偉大な会社をつくるには偉大な人たちと一緒に仕事をすることだと伝えています。人材こそが最も重要な資産であり資源であると示しています。
ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる
概要
本書はビジョナリー・カンパニーの原点とも集大成とも言える著書です。「リーダーシップやパーパス、ミッション・ビジョン、戦略などをどう決めて実行するか」をテーマにまとめられています。
リーダーシップ
リーダーシップの形には様々なものがあり、自分にあったリーダーシップの形を発揮したら良いとしています。しかしその中でも共通して、以下の7つの要素は備えるべきと示されています。
・誠実さ
・決断力
・集中力
・人間味
・対人スキル
・コミュニケーション能力
・常に前進する姿勢
このような要素を備えたリーダーがリーダーとしての機能を発揮することで、企業の成長につながります。
ビジョン
ビジョンの必要性は他の著書でも書かれていますが、本書ではビジョンには「コアバリュー」「パーパス」「ミッション」の3つの要素が必要と示されています。
明確でわかりやすいビジョンを掲げて、共有する仕組みづくりが必要です。
戦略
戦略を立てるときに意識することとして以下4つの原則を示しています。
・ビジョンに直結すること
・企業の強みを活かすこと
・現実的であること
・戦略策定を実現できる人材を関わらせること
コリンズは、戦略とは「ミッションを達成するためのやり方」と説明しており、ミッションやビジョンがあるからこそ、戦略を立てられます。
ビジョナリーカンパニーを経営に活かすには
ビジョナリーカンパニーでは、一貫して組織のあり方やリーダーのあり方について示されました。「誰をバスに乗せるか」や「第5水準のリーダーシップ」など概念として理解できても、いざ実行に移すとなると、足踏みしてしまう方も多いでしょう。
そんなときは、人事の専門家に相談することも検討してみましょう。外部からの視点が入ることで、客観的に自社を捉えることが可能です。
株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。サービスの1つである「RECOMO X」では以下のようなサポートを提供しており、経営の根幹に基づいた支援をすることが可能です。
・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/自走化支援
組織開発のプロセスは1つずつ丁寧に進めていく必要があります。上手にパートナー企業と連携しながら、組織開発に取り組みましょう。
詳しい組織開発の概要やプロセスはこちらの記事をご参照ください。
「組織開発とは?必要なプロセスや企業事例を紹介!」
まとめ
本記事では、ビジョナリーカンパニーシリーズ全巻を約5000字でまとめました。
企業が成長する過程でも、衰退する過程でも「組織」「人材」という分野が大きく関わっていることがわかりました。
現在の良い企業が偉大な企業になるために、偉大な企業が偉大な企業であり続けるために、組織開発や人材開発は欠かせません。