ANAの人的資本経営とは?コロナ禍を乗り越えた人財戦略を解説!

目次

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は様々な業種において影響を与えました。その中でも航空業界は移動の制限もあり、航空需要は一時コロナ前比9割減にまで落ち込むほどの影響を受けています。

これまで順調に事業拡大してきたANA(ANAホールディングス株式会社)ですが、コロナ禍の2020年度と2021年度では通期で赤字となっています。しかし、2022年度ではすでに通期黒字化を達成するほどの回復力を見せています。

グループ連結で従業員4万人以上を抱えるANAですが、旅客機を運行できない中でどのようにしてコロナ禍を乗り越えたのか気になる方も多いのではないでしょうか。

ANAのレジリエンス(回復力)の背景には、柔軟で長期視点の人財ポートフォリオや苦境の中でも耐え抜く企業文化や行動指針があります

本記事では、「ANA統合レポート 2022」で示されたANAの人的資本経営の取り組みについてわかりやすく解説します。

企業情報

ANAについて、航空事業のイメージしか持っていない方も多いのではないでしょうか。まずは、ANAグループの全体像や歴史について紹介します。

ANAグループとは?

ANAグループとは、ANAホールディングス株式会社とその子会社からなる企業グループです。皆さんがイメージする航空事業のANAとはANAホールディングスの子会社である「全日本空輸株式会社」のことを指します。

ANAグループには、航空機整備事業や空港地上支援などの航空関連の子会社以外にも旅行事業や商社事業、シンクタンクなどの子会社が存在します。グループ全体での事業ポートフォリオは2019年度の時点で航空事業が約8割、残りの約2割が旅行事業と商社事業です。

このようにANAグループは航空事業を主軸としているものの、国内外の航空ネットワークや顧客基盤を活かした事業の多角化を行っています。

ANAの歴史

ANAの創業は第二次世界大戦終戦後の1952年です。戦争によって壊滅的になっていた日本の航空事業を再興する目的で設立されました。

当時は、「日本ヘリコプター輸送」という社名でヘリコプター輸送を行う会社でした。1957年に「極東航空」と合併する形で今のANA(全日本空輸)という社名になっています。

現在も受け継がれているANAの企業文化には、初代社長美土路昌一氏の言葉である「現在窮乏、将来有望」があります。「現在窮乏、将来有望」とは、どんなに厳しい苦境に遭遇しても決して腐らず、明るい未来を信じて奮闘努力すれば、やがてきっと飛躍的繁栄の時がくることを意味します

当時は政府主導の航空会社がほとんどの中で純粋な民間会社であるANAへの風当たりは強く、国際線の運行制限もあり、厳しい経営が続きました。それでも地道に国内線で実績をつみ、1986年には国際線の運行開始、1999年には世界最大の航空連合「スターアライアンス」に加盟するほどの成長を遂げています。

現在では、運行している便数やアライアンスの良さから国内で評価されているだけでなく、イギリスの航空格付け会社SKYTRAXから、世界最高評価「5スター」認定を2013年から8年連続で獲得するなど海外からも高い評価を受けています。

2020年度からは、コロナ禍で経営が厳しい状況に陥りますが、ANAがコロナ禍を乗り越えられた1つの要因には、創業以来の信念「現在窮乏、将来有望」があるのではないでしょうか。

ANAの理念

グループ経営理念】
安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で
夢にあふれる未来に貢献します

グループ経営ビジョン
ワクワクで満たされる世界を
私たちは、空からはじまる多様なつながりを創り、
社員・お客様・社会の可能性を広げていきます。

引用:ANA公式HP 企業理念

経営理念の「安心と信頼」はお客様との約束であり、責務であるとANAは表現しており航空会社としての強い意志を感じられます。

また、ANAの理念において特徴的なのはANA’s Way」というグループの行動指針が明確化されており、浸透のための取り組みを非常に積極的に進めている点です。

ANA’s Wayは、「安全」「お客様視点」「社会への責任」「チームスピリット」「努力と挑戦」の5つからなるグループの行動指針です。上記の経営理念や経営ビジョンを達成するためにANAグループの全社員が持つべき心構えや取るべき行動を示す目的で策定されています。

ANAグループの最大の資産は「人財」であると統合レポートでも示されており、「ANA’s Way」を実践できる人財の育成や制度の完備がANAの人的資本経営の中心にあります。

参考になる人的資本経営のポイント

ここからは、具体的にANAではどのような人的資本経営の施策が取られているのかを解説します。特に、理念浸透に取り組みたい企業や多角的な事業展開をしている企業には参考になる事例です。

今回は3つの人的資本経営のポイントに絞って解説します。

ANA’s Way浸透のための取り組み

ANAはあらゆる角度から行動指針の浸透のための取り組みを行っています。いくつか代表的な取り組みをご紹介します。

【ANA’s Day研修】
ANAは創業の歴史を多くの人に知ってもらうための施設「SUMICCO」や従業員の安全教育のための施設「ASEC」などを自社で設立しています。ANAではこれらの施設で定期的に全グループ社員が実践すべき行動指針を再認識するための研修を設けています。

【ANA’s Way AWARDS】
ANAでは、全グループ社員を対象とした「ANA’s Way」の実践を表彰する制度を設けています。事例をグループ全体で共有することで「ほめる文化」が浸透し、従業員のモチベーションの向上に繋がっています。

【ANA’s Way Survey】
ANA’s Way SurveyはANA’s Wayの従業員意識調査を定期的に行う取り組みです。この取り組みでは、従業員の仕事への姿勢や職場満足度などを可視化するだけでなく、部署ごとに調査結果を配布し、改善のためのアクションプラン策定に繋げています。

【ANA’s Way 遂行度評価制度】
ANA’s WayはANAの人事評価制度にも落とし込まれています。ANA’s Wayの実践度を指標に落とし込み、人事制度に組み込むことで、人的競争力の向上に取り組んでいます。

このように、研修・表彰・調査・評価制度とあらゆる角度から行動指針の浸透に取り組んでいる点はANAの人的資本経営の大きな特徴です。

柔軟で長期視点の人財ポートフォリオ

長期的な目線で人財ポートフォリオを策定している点もANAの人的資本経営の特徴です。ANAでは、ポストコロナの経済回復に備えて、可能な限り従業員をレイオフしない施策を取っています。そのため、需要回復ペースに合わせて生産量を拡大することが可能です。

コロナ禍の人財ポートフォリオの施策として、グループ外への出向も拡大しており、累計2,200人を超えるグループ社員が外部の企業や団体での業務に携わっています。出向した従業員が外部の企業や団体での業務で学んだ経験を帰任後に活かしたり、ANAグループに新たな価値観を取り入れて組織を活性化させたりするなど、副次的な効果も期待できます

また、退職してしまった従業員に対しては「カムバック採用」を実施しており、ANAに戻ってきやすい制度を導入しています。

他にも、非航空事業の成長に向けて、デジタル人財を育成するプログラムやデジタルリテラシー向上のための「ANA Digital Resonance」などリスキリングにも力を入れています。苦しい状況下でも前向きで積極的に人的資本経営に取り組む姿勢はとても参考になります。

充実した企業制度

ANAは人財育成のための企業制度が充実しており、従業員が挑戦できる仕組みや必要なスキルを学ぶための環境が整備されています。いくつか代表的な企業制度をご紹介します。

【ANAグループビジネススクール】
ANAグループビジネススクールは選抜型のリーダー育成のための研修です。座学だけでなく社外でのフィールドワークを取り入れながら、グループを牽引するリーダーを育成しています。

【グローバルストレッチトレーニング】
グローバルストレッチトレーニングは、海外事務所の次世代リーダーの育成のために海外雇用社員を育成する制度です。ANAではグループ全体でダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを掲げており、外国人管理職の育成に取り組んでいます。

【ANA-WINDS】
ANA-WINDSはANAグループの女性管理職の学び場で、女性管理職同士のネットワーク形成を目的とした取り組みです。不定期で行われるワークショップでは、将来管理職を目指す女性のためのキャリア支援を行っています。

【ワークプレイス選択制度】
ワークプレイス選択制度は、グループ内の転籍を通じて地方への移住を認める制度です。地方移住を促進する制度として注目されています。他にも働く場所に捉われない「リモートワーク制度」や、事由を問わない休業・休職を認める「サバティカル休暇制度」など多様で柔軟な働き方ができる制度が整っています。

このような取り組みからANAでは「女性管理職比率」「女性役員比率」「中途採用管理職比率」「外国人管理職比率」のいずれにおいても、2018年以降一貫して上昇傾向にあります。ANAは企業制度が人的資本の指標に上手く連動している好事例と言えるでしょう。

ANAの今後は?

現代表取締役社長の芝田浩二氏はポストコロナにおいても成長の柱は国際線にあるとし、「国際線事業の復活」を掲げています。そのためには、ANAとLCCのPeachに加えて2024年2月から新ブランドとして就航予定のAirJapanの3社であらゆる顧客層のニーズに対応できるグループエアラインモデルを構築するとしています。

一方で、柔軟な事業ポートフォリオの早期確立にも力を入れることを公表しており、航空事業で長年蓄積してきた顧客データを活用した新たなサービス提供に取り組んでいます。例えば、マイルを日常生活で使うためのアプリや仮想空間での旅行やショッピングを体験できる「ANAGranWhale」などのローンチを予定しています。

さらなる事業拡大に向けて、今後もANAの人的資本経営は加速していくと考えられます。理念浸透に不安がある企業や人的資本経営に取り組む企業は今後も注目すべき事例です。

人的資本経営・組織開発ならRECOMO

本記事では、ANAの取り組む人的資本経営について解説しました。ANAではANA’s Way浸透のための取り組みが様々な角度から行われており、企業制度も充実しています。

理念や行動指針の浸透にはANAの事例のように多角的な取り組みが必要になり、自社内だけで解決することが難しい場合も多いです。組織開発の伴走者として、株式会社RECOMOが提供するRECOMO Xを検討してみてはいかがでしょうか。

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