目次
企業が成長していく過程で、組織の成長も必要になります。しかし、組織の成長はすぐに効果が出るものではありません。そこで必要となるマネジメントアプローチが「組織開発」です。
「経営戦略がなかなか現場に反映されない」
「優秀な人材が会社を辞めてしまう」
「部署間のコミュニケーションがうまくいかない」
「従業員が主体的に動いてくれない」
多くの企業で、このような悩みを抱えています。
時間をかけて組織開発に取り組むことで、従業員が主体的に行動する持続的な組織を育み、会社や事業の成長をドライブさせることが可能です。
本記事では、組織開発を行うためのプロセスや実際に組織開発に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
組織開発とは
経済産業省では、組織開発を以下のように定義しています。
“組織内の明示的/暗黙的な行動規範や価値観等に意識的・計画的に働きかけることで、個々の構成員の組織への信頼・貢献意欲や組織内の関係性を強化し、組織としてのアウトプットの質の向上や必要な人材の確保・リテンションを図るための一連の活動”
(出典:経済産業省 企業の戦略的人事機能の強化に関する調査)
従業員の意識が変わることで、持続的で強固な組織が実現できます。
組織開発は、組織に属する個々がベストパフォーマンスを出せるための仕組みづくりとも言えます。
組織開発の手順では、組織内の課題を表面化させて計画に落とし込んでいくため、組織ごとに異なったアプローチが必要です。
組織開発が注目される背景
組織開発が日本で近年注目されている背景には「成果主義の台頭」と「働き方の多様性」の2つの変化が関係しています。
従来の日本の企業では、終身雇用が当たり前となっており、横並びの人事評価が慣行されてきました。しかし現在では、グローバル化された激しい企業競争で生き抜くため、成果主義も採り入れた人事評価が増えています。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、テレワークを導入する会社が増え、従来のように毎日会社に出社する以外の働き方も一般化してきました。
人事評価の変化や働き方の多様性により、効率的で働きやすい職場環境になりつつあります。一方で、個人間のコミュニケーションは今まで以上に難しくなります。
組織内で競争が起こることで溝が生まれたり、チャット等で説明してもうまく伝わらず、ミスコミュニケーションが起こることもあるでしょう。
このような背景から、日本でも組織開発の考え方が注目されています。
組織開発の理想型
組織開発のゴールは従業員それぞれが同じ方向を向いて自発的に動く組織を作ることです。
フレデリック・ラルー著書の「ティール組織」では、ティール(進化型)の組織がもっともレベルの高い組織として位置づけられています。
ティール型の組織は、組織と個人の目標や目的が一致しており、それぞれが意思決定できるフラットな組織です。
企業が大きくなるにつれて、ミドルマネージャーが育たずに組織がうまく機能しないことや、理念や行動指針が現場で浸透しないことが発生しやすくなります。
組織開発は、企業を大きくする上で必要不可欠な考え方と言えるでしょう。
組織開発の必要性
組織開発を行うことによって、会社の業績が上がります。組織開発はバックオフィスの仕事と誤解される経営者が多いです。しかし、組織開発は経営そのものであり、業績への影響度が高い取り組みです。
組織開発は下記の3つの効果を会社にもたらします。
①組織が一つにまとまる
組織開発は従業員のエンゲージメントを高めます。
従業員1人1人が「自分たちは何者か」「どこに向かっているのか」「どうありたいのか」という考えを持って自主的に行動するようになります。
②会社の実行力・機動力が上がる
組織開発によって、経営の想いが浸透した組織に成長します。意思決定にブレがなくなったり、現場での行動スピードが格段に上がったりといった変化が起きます。
③イノベーションが促進される
従業員1人1人が当事者意識を持つことで、会社をより良くするための提案が増えて、イノベーションが促進されます。このような風通しのよい組織には挑戦する人材が集まり、質の高い人材雇用にも寄与します。
このように、組織開発は会社経営において、非常に重要な役割を持っています。
経営者が組織開発をやらない手はないでしょう。
組織開発と人材開発の違い
組織開発と似た言葉に「人材開発」があります。
組織開発と人材開発の主な違いは、その目的です。人材開発は個人の能力を高めるためのものです。具体的な方法として、社内研修の実施や資格取得補助制度の導入などがあります。
一方で、組織開発はそれぞれが持っている能力を十分に発揮するための環境をつくるものです。具体的には、会社の理念(パーパス)や思想の整理・言語化や組織マネジメントフレームの構築、人事評価制度の改善などの施策を講じる必要があります。
組織開発も人材開発も、個人のパフォーマンスを向上させる面では同じです。しかし、個人が能力を新たに身につけるためのアプローチと現在の能力を十分に発揮させるための環境づくりのためのアプローチという点で違いがあります。
組織開発のプロセス
組織開発に取り組むためのプロセスは、5段階に分けられます。
焦らず、1つずつ実践していきましょう。
①目的の明確化・ありたい姿の設定
組織開発でまず行うのが、目的の明確化です。企業の理念(パーパス)・ミッション・ビジョン・バリューが組織開発の根幹となります。
その上で、企業のありたい組織像を明確化させていきます。その際には、できるだけ会社の成長と従業員のメリットが共通していることがイメージしやすい表現に設定できると良いでしょう。
組織開発で失敗する例として、目的が曖昧で「なんのための施策なのか」と従業員が不安になり、協力が得られないケースがあります。
スムーズに組織開発を行うためにも、目的の明確化は必ず行いましょう。
②課題の調査・抽出
目的を把握できたら、現状の課題の調査・抽出を行いましょう。目的に対して「現状何が足りていないのか」というギャップを洗い出します。
複数の要因が絡み合っている可能性があるので、様々な角度から分析してみましょう。
③戦略の策定
課題を分析できたら、戦略の策定に取り掛かりましょう。
組織開発を成功させる鍵は、従業員に組織開発を当事者意識を持って取り組んでもらうことです。
そのためには、この段階からそれぞれの部署やグループのキーパーソンを巻き込んで、戦略の策定を行いましょう。忙しくて担当者が打ち合わせに参加できない場合でも、早い段階から共有しておくことで、組織開発を進めやすくなります。
また、従業員に組織開発を当事者意識を持って取り組んでもらうには、スモールスタートでアクションプランを作成するのがおすすめです。1つの部署またはグループで始めると良いでしょう。
小さな成功体験を積むことで、従業員の組織開発に対する興味・関心を高めていくことができます。1つ1つの施策の成功可能性を高められるとともに、失敗した際にも大きなダメージになりづらいです。社員が次の施策を自発的に講じることにも繋がるので、リスクヘッジにもなるでしょう。
④実践と検証
策定した戦略を実行に移し、定期的に検証(フィードバック)するようにしましょう。
検証する際におすすめの方法は、従業員へのヒアリングです。実際に現場の従業員がどのように感じたか、どんな気持ちの変化があったかなどを調査します。
ここで重要なことは、実際にやってみて出てきた課題を明確化することです。見つかった課題を次のアクションプランに落とし込み、再度実践してみるという中長期的に取り組む姿勢が必要です。
③と④は成果が出るまで何度も繰り返し、根気強く継続しなくてはいけません。
⑤自走化
最後に、行ってきた組織開発を全社に展開します。展開する際には、全社で共通した認識を持つためにマニュアルを作成すると便利です。
マニュアルには、成功事例の成功した要因を整理して記載しましょう。実際に成功した事例があることで従業員も安心して取り組めます。
一方、マニュアルを作っただけでは「忙しくて読まない」「認識の齟齬が発生する」などが起きて、正しく浸透しない可能性もあります。対処法としては、マニュアルを説明するためのワークショップを開催したり、最初の数ヶ月はマニュアルに詳しい担当者を配属するなどの工夫が可能です。
外部要因の変化や企業の成長ステージによって、新たな組織開発の取り組みが必要となることもあります。組織開発は常に組織を観察し、継続的に行っていくものと理解しましょう。
会社に必要な組織開発を明確化し、実践することで、会社の成長スピードに対応した持続的に成長する組織を育てられます。
組織開発の企業事例
組織開発は多くの企業で導入されており、実績を出しています。今回は経済産業省が事例として紹介している2社をご紹介します。
事例①株式会社メルカリ
【概要】
・2013年創業
・2022年時点では、従業員1,000人を超える企業規模となっている
【背景】
・社員の行動様式として、3つのバリューを策定「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(全ては成功のために)」、「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」
・バリューの浸透が会社の課題となっていた
【施策】
・Culture Docの制定
Culture Docとは、3つのバリューをさらに落とし込んだ、メルカリの会社と社員が大事にしている共通の価値観をまとめたドキュメントです。
例えば「新卒だから」という特別扱いをせず、プロフェッショナルとしての敬意を払うことや入社3ヶ月以内に、メルカリのカルチャーを自らの言葉で伝えられるようにするなど明確に定められています。
また、メルカリの組織開発で特徴的なのは、メンターランチ、シャッフルランチ、チームビルディングなどの縦横斜めの関係を強化するイベントを定期的に開催していることです。
【効果】
・バリューの浸透/実践が高いレベルで実現できており、近年の会社の急成長に直結
メルカリではCulture Docの制定という形で組織開発を行い、ここ数年で業績を上げています。社員が自走するようになり、オープンな社風でイノベーションも促進されたことが影響しているでしょう。
メルカリの例のように、組織開発を実践し、わかりやすい形で全社に展開することで組織の強化や業績向上につながります。
事例②ソニー株式会社
【概要】
・1946年創業
・2022年時点では、従業員約8,500名の企業規模となっている
【背景】
・事業成長の局面において、社員のチャレンジの場を拡充することに課題を感じていた
【施策】
・「キャリアプラス」「社内FA制度」「キャリア登録」の3つの制度を導入
キャリアプラスとは、社内兼業という形で新たな業務やプロジェクトに挑戦できる制度です。現在の業務を維持しつつ、他の仕事を試してみることができます。
社内FA制度とは、一定の成果を上げた従業員に対して部署異動のFA権を付与する制度です。FA権を獲得するために成果を上げるという好循環にもつながります。
キャリア登録とは、キャリア面談を通じて従業員それぞれのやりたい分野を明確にして、人事およびマネジメント層に共有する制度です。
【効果】
・社員にとって、挑戦の機会というだけでなく、自律的にキャリアを考える契機になっている
FA制度では、すでに1,000人以上の実績を出しており、社員のチャレンジの場が設けられています。
ソニーでは、社員のチャレンジの場を拡充するという目的に対して、非常に明確な施策を打ち出して実践しています。
施策と目的の相互関係がわかりやすいことで、ソニーのような大規模な企業であっても組織開発の全社展開が可能です。
効率的な組織開発の進め方
組織開発のプロセスについて紹介してきましたが、日々の業務が忙しい中で組織開発に取り組むのは大変ですよね。また、自社の目的の明確化や課題の分析も自分たちで取り組もうとすると意外に難しいものです。
そんなときは、パートナーとなる企業とともに組織開発に取り組むことも検討してみましょう。外部からの視点が入ることで、客観的に自社を捉えることが可能です。
株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。サービスの1つである「RECOMO X」では以下のようなサポートを提供しています。
・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/内製化支援
「RECOMO X」は、一般的な相談に乗るだけのコンサルとは異なり、組織の中に入り込み一緒に組織開発に取り組みます。
組織開発のプロセスは1つずつ丁寧に進めていく必要があり、途中で挫折してしまうことも多いです。上手にパートナー企業と連携しながら、組織開発に取り組みましょう。
組織開発の重要性は経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」にも記載されています。組織開発や人的資本経営に取り組む企業は参考にするべき内容です。
まとめ
本記事では、組織開発を行うためのプロセスや実際に組織開発を行っている企業の事例をご紹介しました。
従業員それぞれが最大のパフォーマンスを発揮し、同じ方向に向いて団結した時に、組織は最大の成果を発揮します。
しかし、組織開発はすぐに結果が出るようなものではありません。
事業の成長に合わせて、事前の準備を心がけましょう。
組織開発には、パートナー企業と共に取り組むのがおすすめです。