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サーベイフィードバックとは、組織開発の出発点となる取り組みです。組織の課題を可視化することで、組織開発における戦略策定が可能になります。
一方で、重要な取り組みだとわかっていてもサーベイした結果を行動に移せず、サーベイフィードバックが機能していない企業が多いのも事実です。
本記事では、サーベイフィードバックが組織開発において重要である理由から、実際に導入する際の手順や注意点までを解説します。
サーベイフィードバックとは
概要
サーベイフィードバックとは、従業員を対象に調査(サーベイ)を行い、その結果を従業員本人や担当部署に返却(フィードバック)することです。
従業員への調査は、外部の調査会社へ依頼したり、自社でアンケートを作成して行われます。ただし、サーベイフィードバックにおいて最も重要視されるのは調査後の行動(アクション)です。サーベイによって可視化された課題について「対話」を行い、改善のための行動を取ることまでがサーベイフィードバックの領域です。
中原淳氏が執筆した『「データと対話」で職場を変える技術 サーベイ・フィードバック入門 これからの組織開発の教科書』によってサーベイフィードバックの手法は体系的にまとめられています。本記事は本書で示された内容を中心に解説します。
サーベイとリサーチの違い
サーベイと似た言葉にリサーチがあります。どちらも「調査」と訳せますが、意味が異なります。
サーベイとは、全体像を把握する目的で行われ、広い範囲での調査が行われます。一方でリサーチとは、ある一定の分野に絞って深く研究することです。
言葉の意味からもわかるように、サーベイの目的は「組織の全体像を把握し、組織課題の見える化を行う」ことです。
背景
従業員へのサーベイは「HRテックの普及」と「組織開発への関心の高まり」によってすでに多くの企業で導入されています。
テクノロジーの発展により、HR領域でのDX化も進んでいます。専用のソフトを使うなどして従来よりも簡単に従業員へのサーベイを行うことが可能になりました。加えて「人材版伊藤レポート」や「ビジョナリーカンパニー」では組織開発や人的資本経営の重要性が示されており、人事施策の第一歩として従業員へのサーベイを導入している企業が増えています。
従業員へのサーベイを導入する企業は増えたものの、サーベイをして終わりになってしまっている企業は多いです。このような背景の中で、サーベイ後のアクションまでを体系的にまとめた「サーベイフィードバック」の考え方が注目されています。
サーベイの種類
ビジネスシーンにおいてよく実施されるサーベイは以下の4つです。目的や方法によって名称が異なります。
組織サーベイ
組織サーベイでは、従業員のモチベーションや周囲との関係など幅広い領域で調査を行います。組織の全体像を把握するために利用されるサーベイです。理念(パーパス)の浸透度を調査することも組織サーベイに含まれます。
パルスサーベイ
パルスサーベイも組織サーベイと同様に組織に関する情報を幅広く調査します。一方でパルスサーベイは、組織の変化を把握するためのサーベイです。「パルス」とは英語で脈拍や鼓動などを意味する言葉で、短期間で同じ内容の調査を繰り返し行います。
エンゲージメントサーベイ
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントに絞って調査を行います。自社や自社商品への愛着心を調べることが可能です。従業員のエンゲージメントは離職率に大きく影響していると言われており、人材定着のための指標にもなります。
モラールサーベイ
モラールサーベイは、組織内の関係性に特化したサーベイです。組織や同僚に対して不満がないかやパワハラやモラハラが発生していないかの調査を行います。モラールサーベイを行うことでモラル面の組織課題を捉えられます。
サーベイフィードバックの効果
サーベイフィードバックを行うことがどのように組織開発につながるのか、実施することによって期待できる効果について解説します。
戦略立案のための課題が可視化できる
サーベイフィードバックを企業で取り入れる1番のメリットは「組織課題の可視化」です。組織開発の取り組みは経営層や関係者が集まり、組織課題について「対話」することから始まります。対話するための材料がないと議論は始まりません。
従業員へのサーベイで集めた情報は複数の意見を集約しているため、客観的な事実として対話の材料になります。一方で、それぞれが持ち出した抽象的な組織課題で議論する場合は戦略自体も主観的なものになってしまうおそれがあります。
サーベイフィードバックでは現場の声を反映させて戦略を立案できるので、戦略実施の際に現場のメンバーへの動機づけも行いやすいメリットがあります。
離職防止と人材育成につながる
サーベイフィードバックは離職防止(リテンション)にも効果を発揮します。優秀な従業員を引き止めたいと思った場合でも、すでに離職を決意した段階では引き止めることは難しいでしょう。早い段階で従業員の不満を把握しておくことで予防することが可能です。また、組織状態の適切な分析を通じて、人材育成におけるプラス要因とマイナス要因を把握することができ、ひいては組織の成長を促進します。
このようにサーベイフィードバックは「組織の健康診断」のような役割を担っています。
ネガティブな情報のキャッチアップだけでなく、従業員の強みや関心についても把握しておくことで適切な人材配置も可能になります。
組織内の関係性が円滑になる
サーベイフィードバックでは、サーベイ後の「対話」が重要視されるため必然的にコミュニケーションする場が増えます。
組織開発は部署間を超えて組織一丸となって取り組む必要があります。そのため、他部署との横のつながりはもちろん、経営層と現場メンバーとの縦のつながりにおいても関係性が円滑になります。サーベイフィードバックを実施する担当者の雰囲気作りによって大きく左右されます。
サーベイフィードバックの手順
前述のようなサーベイフィードバックの効果を得るには適切な方法でサーベイフィードバックを実施する必要があります。
「サーベイ・フィードバック入門」では以下の6つのステップに沿って丁寧にサーベイフィードバックに取り組むべきと示されました。
1.目的説明
まずは、参加者全員に共通認識を持ってもらうためにサーベイフィードバックの目的を説明します。主催者自らで説明を行い、参加者自身のメリットや参加に対するねぎらいの気持ちを伝えます。
2.グラウンドルールの提示
話し合いを行うにあたって、守って欲しいグラウンドルールを提示します。例えば「批判をしない」「わからないことは聞く」など参加者全員が安心して議論できる土台づくりを行います。
3.データの提示
サーベイで集計したデータを提示します。提示する際にはシンプルな形で共有するように心がけ、主観が入らないようにしましょう。
4.データに対する解釈
参加者それぞれがデータに関して感じたことについて共有します。それぞれで見え方は異なるため、他者の意見を許容する雰囲気を作ることが重要です。データから組織課題を浮き彫りにすることが目的です。
5.未来に向けた話し合い
組織課題が浮かび上がってくる一方で、自社のあるべき姿についての協議も必要です。組織課題を深掘りしていくとネガティブな雰囲気になりやすいですが、本来はどうあるべきなのかを主催者が中心となってポジティブに話し合います。
6.アクションプラン
最後に、あるべき姿と現状のギャップを埋めるためのアクションプランについて検討します。実際に行動に移せないと意味がないので、実現可能性も考慮しながら現実的なアクションプランを作成しましょう。
サーベイフィードバックの失敗例
サーベイフィードバックに取り組む企業は増えている一方で成果を出せていない企業が多いのも事実です。実施の注意点や失敗しやすい点について紹介します。
途中で力尽きてしまう
サーベイフィードバックで失敗する例として最も多いのは、サーベイした段階やアクションプランを策定した段階で力尽きてしまうケースです。すべてのプロセスを自社で行う場合、従業員からアンケートを取るのも一苦労でしょう。前述のサーベイフィードバックの対話を設けるにも多くの工数が発生します。
従業員においても調査に協力するという工数が発生するので、途中で投げ出してしまった場合は不信感を仰ぐことになります。
サーベイフィードバックを行う際には、必要な工数やタイムラインを最初に洗い出して、実施するのは現実的なのかを判断する必要があります。サーベイフィードバックは、働きがいなど人の感情にも影響するため丁寧な分析が必要です。外部パートナーの知見も活用しながら実施していくことも検討してみましょう。
適切な参加者の人選ができていない
サーベイフィードバックの協議の場に誰に参加してもらうかも重要な要素です。特に主催者とファシリテーターの選定は非常に重要です。全社で取り組む施策の場合の主催者は社長、部署単位で取り組む施策の場合は部門長が適切でしょう。ファシリテーターについては、サーベイフィードバックの手順について正しい知識のある人材を選定する必要があります。社内のメンバーに知識のある人材がいない場合は、社外のパートナーに依頼することも1つの手です。
また、主催者である社長や部門長の組織を改善したいという思いが伝わらない場合、対話の場を設けても積極的な意見交換は期待できません。
主催者が積極的に前にでて、サーベイフィードバックに取り組むようにしましょう。
変化へのストレスに理解を示せていない
サーベイフィードバックに限らず、組織改革の際に重要なのが変化へのストレスに理解を示すことです。変革を行う際には「現状維持バイアス」を前提に進めるべきでしょう。現状維持バイアスとは「知らないことや経験したことがないことを受け入れたくない」という心理的傾向のことです。
変化へのストレスを理解した上で、サーベイフィードバックの目的やメリットを丁寧に説明するなどの動機づけのための対応が重要です。
数字におどらされる
サーベイの結果についての理解も重要な要素です。単純な数値として理解し、場当たり的に数値を上げるための施策を考えるのではなく、本質的にどのような背景があった上での結果なのかを分析しましょう。
サーベイでは悪い結果を目にすることも多く、自分に都合の良い理解をしてしまいがちです。特に1人で考えるとこのような考え方に陥りやすく、関係者と対話をしながら考えていく必要があります。
サーベイフィードバック導入に不安がある場合は
サーベイフィードバックの手順や注意点について紹介しましたが、サーベイフィードバックにおいて最もネックな部分は工数がかかる点でしょう。また、丁寧にプロセスを踏まなかった場合は時間をかけたにもかかわらず結果が得られないこともあります。
サーベイフィードバックを検討し、工数や知見の面で不安がある場合は外部のパートナーを導入することも1つの手でしょう。また、外部からの視点が入ることで、客観的に自社を捉えられるメリットもあります。
株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。サービスの1つである「RECOMO X」では以下のようなサポートを提供しており、サーベイフィードバックに限らず、経営の根幹に基づいた組織開発の支援をすることが可能です。
・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/自走化支援
組織開発のプロセスは1つずつ丁寧に進めていく必要があります。上手にパートナー企業と連携しながら、組織開発に取り組みましょう。
詳しい組織開発の概要やプロセスはこちらの記事をご参照ください。
まとめ
本記事では、サーベイフィードバックの重要性から実施の手順、注意点までをご紹介しました。
サーベイフィードバックは組織課題の可視化ができ、離職防止や組織力強化につながるため、組織開発においてメリットの大きい取り組みです。
一方で、サーベイフィードバックを上手く活用するには、丁寧にステップを踏んでいく必要があります。実施の際には工数なども考慮しながら長期的な目線で取り組まなくていけません。