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チェンジエージェントは、組織開発の成果を大きく左右する重要な役割を持ちます。人的資本経営の重要性が高まっている中、組織改革を推進するチェンジエージェントが組織や社会にとって必要とされています。
組織開発の分野でしばしば耳にする「チェンジエージェント」ですが、具体的にどのような役割を持っていて、どのような人材のことを指すのかご存知でしょうか。
本記事では、チェンジエージェントの必要性から導入方法までを解説します。
チェンジエージェントとは
概要
チェンジエージェントとは、組織を巻き込み、組織変革を促す人材です。「変革推進者」「変革促進人」「変革媒体者」「変革の使徒」などと訳されます。
チェンジエージェントについて、立教大学の教授で、組織開発に関する本を複数出している中原淳氏は著書の中で以下のように説明しています。
“チェンジエージェントは、グループや組織、コミュニティや社会がよくなっていくことに向けて、変化が起こることのきっかけとなり、変革を推進する人を指します。”
参考:組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす 中原淳, 中村和彦
チェンジエージェントは、あくまでも組織がうまく機能するために支援する役回りです。組織開発は1人では完結できません。周りとの「対話」や「調査」を行い、一枚岩で組織開発に取り組む雰囲気を作ることはチェンジエージェントの重要な役割の1つです。
背景
チェンジエージェントは1947年にアメリカで設立されたNTL(National Training Laboratories for Group Development)から始まっています。その後、P・Fドラッガーの著書「ネクストソサエティ」で、「変化に対応し、成功するには企業はチェンジエージェントにならなければならない」と示されたことで広まりました。
もともと、チェンジエージェントという言葉には、「組織開発を通じて、人間が尊重される民主的な社会に変革する人材を育てたい」という思いが込められています。
必要性
組織開発や人的資本経営の重要性がわかっていても、実際に行動に移すことは難しいです。組織の変革には様々なリスクも存在します。間違った組織開発を行うことで、優秀な従業員が辞めてしまったり、部署間の連携がうまくいかなくなったりと経営に悪い影響を与えることもあります。
そのため、組織開発における正しい「価値観」「スキル」「知識」を持った人材を中心に組織開発を行うべきでしょう。一方でこのような役割を担えるチェンジエージェントと呼べる人材が少ないのも事実です。
組織開発とは
組織開発はOD(Organization Development)を日本語訳したものです。Developmentには「発達」や「成長」の意味があり、組織を成長させるための取り組みすべてを「組織開発」と呼びます。
組織開発に取り組むことによって、組織に属する個々がベストパフォーマンスを出せるようになり、事業の成長にも直結します。人材版伊藤レポートでも示された通り「人材戦略と経営戦略を連動させる」ことで企業の競争力が向上し、持続的な経営が可能です。
ただし、組織開発は短期間で成果が出るものではありません。組織内の課題から丁寧に戦略に落とし込み、実践とフィードバックを繰り返す必要があります。組織開発が企業に与えるメリットは大きいものの、知見が必要であったり、工数が取られてしまったりするため導入に慎重な企業も多いでしょう。
チェンジエージェントを導入することでスムーズに組織開発に取り組むことが可能です。
組織開発の必要性やプロセスについて詳しく知りたい方はこちらの記事もオススメです。
チェンジエージェントの役割
チェンジエージェントは、組織開発の最初から最後までをサポートする存在です。組織開発のプロセスは、目的の明確化・ありたい姿の設定→課題の調査・抽出→戦略の策定→実践と検証→自走化の流れで行われます。
特に、組織開発では戦略の策定に入る前の下準備が非常に重要です。組織開発の目的や課題を正しく理解しないまま、戦略を策定してしまうと、組織開発の成果は得られないでしょう。
組織開発の各工程でのチェンジエージェントの役割について解説します。
目的の明確化・ありたい姿の設定
目的の明確化においてチェンジエージェントに求められる役割は、関係者から本音を引き出すことです。具体的には、関係者で「企業のありたい姿」について対話する場を設けたり、1人1人にヒアリングを行うことによって組織開発の目的を明確にしていきます。
特に日本人は警戒心が強く、あまり本音を語らないと言われています。話しやすくする環境づくりや関係値の構築など地道なところから丁寧に進めなくてはいけません。
課題の調査・抽出
課題の分析においてチェンジエージェントに求められる役割は、客観的な情報を集めることです。そのために有効なのは「サーベイフィードバック」です。サーベイフィードバックでは、従業員に調査を行い結果をまとめます。複数の意見を集約しているため、客観的な事実として戦略策定の材料になります。
チェンジエージェントが自身で課題について分析するのではなく、主観が入らないように組織の現状を関係者に伝えることが必要です。わかりやすく情報をまとめ、課題を抽出することで、議論の優先順位をつけやすくなりスムーズに戦略策定に取りかかれます。
戦略の策定
戦略の策定においてチェンジエージェントに求められる役割は、戦略策定の会議の舵取りです。チェンジエージェントが会議のファシリテーターを務める場合も多いでしょう。
適切な参加者の人選はもちろん、異なる意見を許容する雰囲気を作ることが重要です。組織課題について話すとネガティブな方向に議論が進むおそれがあり、自社のありたい姿の実現のためのポジティブな議論にしていくための会議の舵取りが求められます。
実践と検証
実践と検証においてチェンジエージェントに求められる役割は、従業員への組織開発の動機づけです。組織開発を成功させる鍵は、従業員に組織開発を当事者意識を持って取り組んでもらうことです。
大きな変化に対応できない従業員も出てきます。正しく組織開発の必要性や従業員に対するメリットなどを理解してもらうための積極的な対話が必要です。
一方的に押し付けるのではなく、組織開発によって出てきた現場の意見を正しく吸い上げて、改善していくPDCAを回していくこともチェンジエージェントの役割です。
自走化
自走化においてチェンジエージェントに求められる役割は、最後まで組織開発をやり遂げることです。組織開発は長期的な取り組みとなり、労力もかかるので途中で力尽きてしまうケースが多くあります。
組織開発の成果が見えてきても、従業員に習慣化していない場合はすぐに後戻りしてしまうでしょう。ロンドン大学の研究では習慣化に必要な期間は18日〜254日と言われており、習慣化したい行動の難易度によって必要期間が変動するとされています。
習慣化し、組織が自走化するまでがチェンジエージェントの役割です。
チェンジエージェントに適した人材とは
チェンジエージェントに適した人材は、必要な「価値観」「スキル」「知識」を兼ね備えた存在です。それぞれの具体的な内容について解説します。
「人を信じる」価値観
チェンジエージェントには「人を信じる」価値観が必要不可欠です。組織開発は、個人のパフォーマンスを最大化して事業の成長に繋げる取り組みです。チェンジエージェント自身が人の持つ可能性を信じられない場合は、組織課題のプロセスの中で気持ちが折れてしまうこともあるでしょう。
人と向き合うことが好きで、人を信じることを貫ける人材こそがチェンジエージェントに適した人材です。
コミュニケーションスキル
組織開発は1人では行えない以上、周りを巻き込むコミュニケーションスキルも必要です。具体的には、ファシリテーションスキルやヒアリングスキルが求められます。どちらも本音を引き出すためのスキルです。一朝一夕で身につくスキルではないので、研修や現場での経験が必要になります。
チェンジエージェントは、自分のためではなく、あくまでもサポート役に回り、人間関係のバランスを取る高度なコミュニケーション能力を持った人材です。
組織開発の知識
アメリカで先進的に取り組まれてきた「組織開発」ですが、日本でも組織開発のフレームワークや実例などの有益な情報が手に入るようになってきました。例えば「パフォーマンスマネジメント」や「リスキル」などの必要性を正しく理解していたり、すでに組織開発に取り組んでいる企業を参考にしたりできる組織開発の知見のある人材が必要です。
チェンジエージェントは、体系的な知識と現場での実践によって成長し続ける人材です。
チェンジエージェントの導入方法
チェンジエージェントに適した人材が組織内にいない場合は、以下の3つの方法で導入が可能です。
①人材育成(リスキル)
②新規採用
③外部パートナーとの連携
それぞれの導入方法やメリット・デメリットについて解説します。
①人材育成(リスキル)
「スキル」と「知識」については人材育成でカバーすることが可能です。例えば、ファシリテーションスキルを身につけるには資格取得や研修に参加するなどの方法があります。
ただし、知識をつけるだけでなく、実践の場を設けることも人材育成において重要な要素です。
人材育成には時間がかかります。しかし、自社の人材がチェンジエージェントの役割を担うことで新規採用と比べると、企業文化の維持のしやすさや採用コストの削減などのメリットがあります。
②新規採用
新規採用する場合は「スキル」や「知識」はもちろん「価値観」の部分はよく精査して採用する必要があります。経営と人事領域の両方の視点を持ったCHROの経験がある人材を採用するのもよいでしょう。
ただし、チェンジエージェントに必要な「価値観」「スキル」「知識」を兼ね備えた人材は市場に少なく、また自社との相性も鑑みると、採用コストは上がってしまう傾向にあります。採用までに時間がかかってしまうケースも多く、コストや時間に余裕がある場合に適した方法と言えるかもしれません。
③外部パートナーとの連携
最後に組織開発を外部パートナーとともに取り組む方法についてご紹介します。チェンジエージェントはあくまでも、組織開発をサポートする立場であるため、社内の人材である必要はありません。
社外の人間がチェンジエージェントを務めることで、すぐに組織開発に取り組めるだけでなく、外からの視点で自社を客観的に捉えられるメリットもあります。
組織開発のプロセスは1つずつ丁寧に進めていく必要があります。上手にパートナー企業と連携しながら、組織開発に取り組みましょう。
組織開発・人的資本経営ならRECOMO
チェンジエージェントを内製化したいけれど、現状の人員では難しい場合は株式会社RECOMOの提供する「RECOMO X」を検討してみてはいかがでしょうか。
株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。チェンジエージェントとして、組織開発をサポートしながらチェンジエージェントの育成までを行います。
具体的には、以下のようなサービスを提供しています。
・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/自走化支援
組織開発においてチェンジエージェントの役割は必要不可欠です。自社に合った導入方法を検討し、事業の成長に直結する組織開発を実現しましょう。