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次年度の予算について、頭を悩ませる経営者や人事担当者は多いのではないでしょうか。
特に、人事部が管理する予算の幅は広いことが多く、予算策定の際には「どこまでを人事部の予算に組み込むべきか」「予算が多すぎたり少なすぎたりしないか」と判断が難しい場合もあるでしょう。
特に、人件費や採用費、研修費などの予算策定は「人材版伊藤レポート」で示された、経営戦略と人材戦略の連動のためのKPI設定に深く関わってきます。
人事の予算策定の方法について開示されている情報は少なく、それぞれの企業が独自の方法で算出していることがほとんどです。
本記事では、実際に経営者やCHROからヒアリングした情報をもとに、以下について解説していきます。
・多くの企業で取られている人事予算の策定方法とは?
・現状の人事予算策定方法の課題とあるべき姿とは?
・具体的な人事予算策定のステップとは?
人事予算の必要性
人事予算とは?
人事予算とは人事に関連する「予算」のことです。次年度の予算は、人事予算をはじめ、部署ごとやプロジェクトごとに策定して会社全体の予算とします。
ビジネスにおける予算について、グロービス経営大学院のMBA用語集では以下のように解説しています。
“予算とは、企業が将来の経営ビジョンに基づいて設定した具体的な目標を、数字として表現したもの”
引用:グロービス経営大学院
また、予算の立て方には一般的に「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2つのパターンがあります。
トップダウン型とは、経営陣が一方的に各部署の予算を決める形です。一方ボトムアップ型は、各現場が自主的に予算を設定し、それらを集計して会社全体の予算とする形です。
双方ともメリット・デメリットがあり、トップダウン型に偏ると現場がついてこられなくなったり、ボトムアップ型に偏ると利益目標からかけ離れてしまうことがあります。
そのため、予算策定には経営戦略を描いている経営陣と現場の状況を理解している現場側の人間との間ですり合わせが必要となり、予算策定を難しくしているポイントでもあります。
人事予算の課題
よくある人事予算の立て方には以下のようなものがあります。
・前年度の予算をもとに次年度の予算を作成する
・1人当たりの見込み費用を算出して掛け算する
・会社の財務情報をもとに各部署の予算を算出する
どれも考慮すべき要素ではありますが、これらだけを基準に人事の予算を策定すると、予算が少なすぎたり、多すぎたりと正しい予算を立てるのは難しいです。もちろん予算に増減は発生しますが、予算と実績に大きな乖離が生じることは、会社の経営に大きな影響を及ぼすので避けたいものです。
例えば、前年度の予算をもとに予算を策定する場合には、前年と比べて社内の事業の状況も外部環境も変化しているはずです。
予算の策定について全く見当がつかず、何から始めたらよいかわからない方はまずは、このような視点から予算について考えてみるのも1つの手です。しかし、このような策定方法では、特に成長が著しいスタートアップ企業などの場合、次年度の予算のやりくりが大変になるだけでなく、次年度末に適切な振り返りができないため組織として成長しません。
根拠を持って考えた予算であれば、振り返る際に何が原因で達成できなかったのかを分析することが可能です。人事の予算策定には時間を割いてきちんと考えるべきでしょう。
人事予算策定で考慮すべき3つのポイント
どんぶり勘定な予算策定にならないためには、以下の取り組みをする必要があります。
①経営陣と現場を知る人事担当者の対話
②人事部が担当する領域の明確化
③現場の実情を踏まえた具体的数値への落とし込み
以下、具体的に解説していきます。
①経営陣と現場を知る人事担当者の対話
前述の通り、予算を決める際にはトップダウン型かボトムアップ型に偏りがちです。経営陣と人事の現場を理解している担当者とで対話をすることで会社の経営戦略に沿った形で予算を立てることが可能です。
しかし、実際には現場から何人追加で採用して欲しいと声が上がってきても経営陣に人事に理解がある人材がいないと判断が難しい場合も多く、適正配置が叶わないことから事業成長に歯止めをかけてしまうリスクもあります。
そこで「人材版伊藤レポート」で示されているようにCHROを設置することも検討してみましょう。CHROとはCxOの1つで、経営幹部として役員会議や経営会議に参加します。最高人事責任者として、人的資本の管理のすべてに責任を持ち、ビジョンや理念の実現に向けて寄与する役職です。
経営と人事の両方の視点を持った人材が人事予算の策定を主導することで最適な予算を立てることができます。
また、人件費や研修費などの予算はすべての部署に関係してくるので、経営陣のみならず各部署のトップとの連携も人事予算策定の重要なポイントになります。
②人事が担当する領域の明確化
人事の予算を考える上で、どこまでが人事の担当範囲なのかを明確にすることが重要です。特に、人事が総務も兼任している場合は担当領域が広くなり、必要な予算も多くなります。これらはすべての会社で共通フォーマットがある訳ではなく、それぞれの会社で独自に領域が決まっています。
きちんと明確にしない場合、他部署と二重で予算を組んでしまったり、逆にどこの部署でも予算が組まれておらず、他の予算から補填することになり、事業に支障が出てしまうこともあります。
また、それぞれの部署の人件費をはじめとする人事関連費用はどこの部署が管理するかという点もしばしば論点に挙がりますが、人的資本経営を推進していく上では、少なくとも人事部は各部署の人事関連費用を把握するべきで、全社最適の視点を持って全社の人事関連費用を管理していくことが望ましいでしょう。
以下、一般的に人事予算に含まれる項目を記載します。
人件費
人件費には給与以外にも、賞与、退職金、法定福利費、福利厚生費、社会保険費などが含まれます。給与を何%上げるかなど、自社の経営戦略や財務戦略をもとに決めていく必要があります。
採用費
採用費とは、企業が人材を雇用する際に発生する経費のことです。人材紹介会社に支払う費用だけでなく、内定者の引っ越し費用やリクルートページの作成にかかる費用なども見落とさないようにしましょう。
例えば、人材紹介会社を利用して採用する想定であれば以下のように算出します。
例)年収450万円の人材を成果報酬が35%の人材紹介会社を通じて獲得する場合
450万円 x 35% = 150万円(1人当たり)
次年度に5人採用する場合は150万x5人の750万円が次年度の採用費予算になります。
研修費・育成費
研修費とは、業務上必要なスキルや技能を従業員などに修得させるために要した研修費用です。産労総合研究所のデータでは、2020年度の研修費の予算額平均値は39,860円と公表されています。そのため1人当たり3~4万円を従業員数で掛けて算出する企業が多いです。
ただし、岸田首相の「リスキルの支援に5年で1兆円を投じる」表明からもわかるように従業員の研修にかける費用の注目度は増しており、今後予算を増やしていく企業も増えるかもしれません。
参考:日本経済新聞
その他の費用
他には、内定式や入社式の費用や、社内コミュニケーション費なども人事予算に含まれることがあります。総務も兼務している人事部であれば、より領域は広がり、オフィス設備費や消耗品費などの予算も考慮する必要があります。
③現場の実情を踏まえた具体的数値への落とし込み
人事予算を策定する際には、仮説であっても構わないので、戦略を立て、その戦略を具体的な数値に落とし込むことが重要です。
例として採用費の予算で次年度に5人採用する場合、5人全員を採用エージェントで採用した場合と、うち2人をリファラル採用する場合では大きく予算が異なります。採用の手段だけでも以下のような方法があり、それぞれ設定する予算が異なります。
採用手段 | 例 | 費用 |
転職サイト掲載 | マイナビ、リクナビ、デューダなど | 4週間/1職種で最低20万~150万円 |
合同説明会参加 | マイナビEXPO、キャリタス就活フォーラムなど | 東京の対面型で70万~95万円、オンライン型で40万円~ |
ダイレクトリクルーティング | Linked inなどの無料SNS利用やハローワークの活用など | 自社従業員の人件費や交通費のみ |
リファラル採用 | 従業員による紹介 | 報酬で数10万円ほどで制度化されている場合が多いが、0円の場合もあり |
採用エージェント | ネオキャリア、パソナキャリアなど | 年収の30~35%、エンジニアやハイレイヤーの場合はさらに比率が上がる |
オウンドメディアリクルーティング | リクルートページの作成など | 中小企業へ依頼で50万円~大手企業へ依頼で数100万円~ |
例えば、明確な予算を組まずに転職サイト掲載や合同説明会に費用を使っていた場合は、人事担当者もゴールを見失ってしまいます。次年度採用目標が5人だとした場合に、どのような施策を展開して、その中で合同説明会からは2名を採用するなど具体的な数値目標を設定する際に、予算が重要な役割を果たします。
人事予算策定の3ステップ
人事に関する施策は長期目線なことが多く、単純に前年度予算の焼き直しや次年度達成したいことを洗い出すだけではうまくいきません。具体的には以下のプロセスを踏んで人事予算の策定にたどり着きます。
経営理念(パーパス)→経営戦略→人材戦略→人事予算
定性情報から定量情報へと1つずつ段階を追って考える必要があります。以下、具体的に予算を組む際の3ステップをご紹介します。
①「自社のありたい姿」を明確にする
まずは、3年、5年、10年と長期的な目線で「自社のありたい姿」を明確にすることから始めます。そのためには、役員との対話が必須となります。
特に、経営者と役員の間でビジョンに乖離がある場合には、早めの対処が必要です。遠い未来になればなるほど、表現が抽象的になりがちですので、それぞれの意見が同じ意味で理解できているのか、丁寧に確認しながら自社の将来像を明確にする必要があります。
予算の策定時には1年スパンで考えがちですが、どれだけ長期的な目線で計画できるかで人事予算の精度が変わります。
②経営戦略と人材戦略の連動
経営理念(パーパス)を経営戦略に落とし込めたら、次に人材戦略との連動を図ります。人材版伊藤レポートでも示された通り、企業の成長において「経営戦略と人材戦略の連動」は非常に重要な要素です。
経営陣と人事部または、他部署と人事部で積極的にコミュニケーションを取り「どのような人材が必要か」「いつまでに必要なのか」などを明確にします。
社内の状況を踏まえて、新規に採用するのか、従業員にリスキルを実施するのか、外部に委託するのかなどの戦略を練ります。
③人材戦略に基づき、予算(数字)に落とし込む
人材戦略が明確になれば、後は具体的な施策を考え、予算に落とし込みます。この段階までくれば、前年のデータやインターネット上のデータを参考にするのもよいでしょう。
ただし、実際に運用してみると思った通りにならないことも多いです。うまくPDCAを回して、設定した予算に対する振り返りをすることで徐々に予算の精度も高まります。
できる限り細かく丁寧に予算を設定するようにしましょう。
人事予算策定に不安がある場合
自社で予算を立ててみようと思ったものの、予想以上に不確実なことも多かったり、施策の優先度がわからなかったりすることがあると思います。また、本当に成果が出るか不安だったり、担当の領域が広過ぎて予算立てが難しかったりする場合も多いでしょう。
そんなときは、パートナーとなる企業とともに予算を組むことを検討してみましょう。他社の事例と比較し、的確なアドバイスを受けることが可能です。
株式会社RECOMOは理念から丁寧に会社づくりをサポートする会社です。サービスの1つである「RECOMO X」では以下のようなサポートを提供しています。
・経営者が取り組む本質的な課題の可視化
・ビジョン実現のための人材組織戦略策定と実行支援体制構築の支援
・責任者人材の育成/自走化支援
「RECOMO X」は、一般的な相談に乗るだけのコンサルとは異なり、客観的な視点を持ちながら組織の中に入り込み、二人三脚で組織開発に取り組みます。
RECOMOをはじめとしたパートナー企業と連携しながら、早めに次年度の人事予算策定に取り掛かりましょう。
まとめ
本記事では、人事予算の策定時のポイントや策定のステップなどを解説しました。
人事予算を立てる際には経営理念(パーパス)から丁寧に段階を追って、具体化・定量化していく必要があり、他部署や経営層とのコミュニケーションが重要となります。
予算策定に行き詰まった場合は、その前提となる戦略や経営思想から捉え直す必要がある場合も多く、「RECOMO X」などのサービスを導入するのも1つの手です。