人的資本経営の実践と開示の必要性を経済界の動向と企業事例から解説!

人的資本経営

2021年あたりから、「人的資本経営」というワードがよく使われるようになりました。国内では、経済産業省や内閣官房によって人的資本経営実現のための動きがあります。

2022年10月3日の所信表明演説では、岸田首相から「リスキリング支援に5年で1兆円を投じる」という発表もあり、人的資本の考え方は確実に広まってきています。

本記事では、人的資本経営について経済界の動向や企業事例を知ることで人的資本経営の全体像を把握することが可能です。

主に下記2点を中心に解説していきます。

・経済産業省や内閣官房が人的資本を重要視する背景や開示に向けての動き
・人的資本経営実現のために実際にどのような取り組みが企業で行われているか

人的資本経営とは?

経済産業省では、人的資本経営とは何か以下のように示しています。

“人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。”

引用:経済産業省

ポイントは人材を資本と捉えるということで、人材は投資の対象として企業は人材に対し時間やお金を使っていくべきだという考え方です。長期的な企業の成長のためには必要不可欠な要素の1つです。

時代の変化によって、今の日本企業に求められている「人材」に対する考え方が人的資本経営です。

また、2021年6月の「コーポレートガバナンス・コード」改定や2023年には有価証券報告書に人的資本情報の記載の義務付けが検討されるなど人的資本開示の義務化の動きがあります

そのため、現在人的資本に取り組んでいない企業も今後は必要となってくる可能性が高いです。

具体的な開示項目や企業が取り組むべき内容は下記の記事をご参照下さい。

人的資本経営とは?企業が取り組むべき必要性と準備について解説!

主な経済界の動向

2020年に第一弾の「人材版伊藤レポート」が公表されて以来、経済産業省や内閣官房など行政でも日本企業の人的資本経営を後押しするための活動が行われています。

人的資本開示のための取り組みが進められており、特に下記3つの団体の動向に注目するようにしましょう。

・経済産業省「非財務情報の開示指針研究会」
・内閣官房「非財務情報可視化研究会」
・人的資本経営コンソーシアム

経済産業省「非財務情報の開示指針研究会」

非財務情報(Non-Financial Information)とは、企業が株主や投資家へ開示するディスクロージャー情報のうち、財務諸表などで開示される情報以外の情報のことです。

人的資本を含むESG(環境・社会・ガバナンス)やMD&A(経営者による財政状態及び経営成績の検討と分析)が非財務情報に含まれます。

これらの非財務情報の開示の方向性を協議するために、2021年6月経済産業省は「非財務情報の開示指針研究会」を設立しました。

日本だけでなく、世界的にも「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」によって非財務情報開示の国際基準の協議が行われています。

非財務情報の開示指針研究会では、下記のようなことが提言されています。

・人的資本の情報開示は「価値向上」のための開示と「リスクマネジメント」のための開示に分かれる
・人的資本に関する取り組みをKPIとして開示するべき
・KPIには設定した意図や目指している水準などの定性情報を入れることが望まれる

このように、非財務情報の開示指針研究会では、人的資本の情報開示の在り方について検討/発信し、日本の非財務情報の開示に関する国際的な評価を高めることを目的に活動しています。

参考:経済産業省 非財務情報の開示指針研究会

内閣官房「非財務情報可視化研究会」

非財務情報可視化研究会は、非財務情報の開示ルール策定と、企業や経営層に向けた開示の指針について研究する会です。2022年2月に内閣官房によって発足しました。

具体的に下記のことを日本企業に推奨しています。

①人的資本の可視化のためのフレームワークの活用
②4つの要素に沿った情報開示
③具体的な開示事項・指標

【①人的資本の可視化のためのフレームワークの活用】
人的資本の可視化のために非財務情報可視化研究会では、価値協創ガイダンスとIIRC(国際統合報告評議会)が制定したフレームワークを活用することを推奨しています。

価値協創ガイダンスは、企業と投資家を繋ぐ「共通⾔語」になるものです。活用することで、投資家に伝えるべき情報を体系的に整理できます。

IIRCのフレームワークは、人的資本を含む6つの資本(財務資本、製造資本、知的資本、社会・関係資本、自然資本、人的資本)とビジネスモデルとの関係性を整理するフレームワークです。企業の価値創造プロセスを他の資本との関係性を含めて統合的に説明していく上で効果的です。

【②4つの要素に沿った情報開示】
非財務情報可視化研究会で示される4つの要素とは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」です。これらに沿って人的資本を開示すべきとしています。

ガバナンス:人的資本に関連するリスク及び機会に関する組織のガバナンス
戦略:人的資本に関連するリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画へ及ぼす影響
リスク管理:人的資本に関連するリスク及び機会を識別・評価・管理するためのプロセス
指標と目標:人的資本に関連するリスク及び機会の評価・管理に用いる指標と目標

【③具体的な開示事項・指標】
2022年8月30日に内閣官房の非財務情報可視化研究会は「人的資本可視化指針」を公表しました。人的資本可視化指針では、人的資本の具体的な開示事項・指標が示されています。

人的資本可視化指針の解説については、こちらをご参照下さい。

情報開示の準備について

人的資本経営コンソーシアム

人的資本経営コンソーシアムは、人的資本経営の実践に関する先進事例の共有、企業間協力に向けた議論、効果的な情報開示の検討を行う会です。2022年8月に伊藤レポートを作成した伊藤邦雄先生を中心に発足しました。

オブザーバーとして経済産業省と金融庁も参加しています。他にも2022年8月時点で、伊藤忠商事や楽天グループ、セブン&アイ・ホールディングス、日本IBMなど計320社が参加しています。

人材版伊藤レポートでは、人的資本経営の「実践」に重きを置いて語られましたが、本コンソーシアムでは、「実践」と「開示」の両軸で協議/検討が行われます。

2022年8月25日に開かれた設立総会では、人的資本経営コンソーシアムの活動について、経済産業省 大臣官房審議官の蓮井智哉氏より、以下のように説明されました。

“人的資本経営コンソーシアムは、人的資本経営の実践と開示について会員企業が智恵を持ち合い、先進事例や悩みを共有することで、全体として人的資本経営を進展させる場としていきたいと考えています”

引用:日本の人事部

コンソーシアムでは、総会の他にも会員と投資家との対話の場を設けたり、実践に関する先進事例を共有し、企業間協力などに向けて議論する場を設けたりといった活動が行われます。

企業事例

本記事では、人材版伊藤レポートにて、先進的に人的資本経営を実践している企業として取り上げられた19の企業のうち3つの企業を抜粋してご紹介します。

参考:人材版伊藤レポート2.0 実践事例集

株式会社サイバーエージェント

【人的資本経営の実現のための施策】
・組織的なリスキルの実現
・役員と従業員が交流する場の提供

サイバーエージェントでは、創業の広告代理事業から新たな事業領域に合わせたリスキルを随時従業員に実施することで、メディア事業やゲーム事業などに事業を拡大してきました。その背景には、従業員に積極的にリスキルに取り組んでもらうために勉強会方式でリスキルを実施したり、リスキルで補えない部分をうまく採用で補填したり、などの工夫があります。

リスキルの他に、サイバーエージェントで積極的に取り組んでいる施策は、若手従業員に対しての成長機会の提供です。例えば、若手従業員と役員でチームを作り、経営課題について討論する「あした会議」という取り組みがあります。役員と従業員が交流する場を提供することで、別の視点から見た画期的なイノベーションや従業員のエンゲージメントにも繋がります。実際にサイバーエージェントでは、20~30代の社長を50人以上輩出している実績があります。

このように、自社の経営戦略を人材戦略に落とし込み、リスキルの実施や採用、役員と従業員が交流する場の提供などを行うことで人的資本経営の実現が可能です。

リスキルの具体的な導入方法やメリットについて知りたい方はこちらの記事もご参照下さい。

リスキルとは?デジタル時代の人材戦略を徹底解説!

双日株式会社

【人的資本経営の実現のための施策】
・人材KPIの策定と浸透
・多様なキャリア・ライフプランの支援

双日では、経営戦略と一体となった人材戦略の実現のために「人材KPI」を策定しています。

人材KPIでは、具体的に下記のような指標があります。
・女性総合職 海外・国内出向経験割合40%
・デジタル基礎研修修了者 総合職全員
・2025年までに海外法人のCXOの50%が外国人人材
・健康診断2次検診 受診率70%

このように具体的な数字に落とし込むことで、目標達成のためのフィードバックも行いやすく、社外に公表する際にも役立ちます。双日では、人材KPIを策定するだけでなく、経営会議や取締役会で人材KPIの進捗報告を必須としており、役員報酬の評価にも活用するなど浸透のための工夫が行われています。

また、多様なキャリア・ライフプランの支援のために「双日プロフェッショナルシェア株式会社」を2021年3月に設立しました。同社では、就業時間や場所に制限がなく、独立したい従業員や副業したい従業員などに対して、双日のリソース(資金・情報・ネットワーク)を提供しています。

双日では、人的資本の開示と人的資本経営の実践を人材KPIなどを用いてうまく実現しています。人的資本経営は一度KPIを設定したら終わりではなく、継続的に取り組むべき必要がある点に注意しましょう。

花王株式会社

【人的資本経営の実現のための施策】
・従業員1人1人がOKRを設定

花王では、2021年よりOKRを導入し、従業員1人1人にOKRを設定させています。OKRとは、Objectives & Key Resultsの略で達成すべき目標とそのために必要な成果を洗い出す目標管理の1つの手法です。花王では、OKRを「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」と定義しています。

まずは、従業員に中長期的な理想の姿を描いてもらい、組織の目標との紐づけを行います。従業員自身も自分の目標と組織の目標が一致していることで、視座が高まり、エンゲージメントの向上が期待できるでしょう。

他にも花王では、経営トップを委員長とする「人財企画委員会」を毎月開催し、人財開発に関する様々な課題や施策に関する議論や、進捗状況の共有を行うなど経営層が積極的に人材戦略に取り組んでいます。

従業員1人1人と向き合うのは大変ですが、経営層が経営戦略のみに没頭するのではなく、人材戦略との整合性を考えながら経営戦略に向き合っていく必要がありそうです。

まとめ

本記事では、人的資本経営について経済界の動向や企業事例を中心に解説しました。

人的資本の開示の必要性は高まっており、経済産業省や内閣官房を中心に整備が進んでいます。また、今回ご紹介した企業の他にも先行して多くの企業が人的資本の開示と人的資本経営の実践に取り組んでいます。

ただし、人的資本経営の実践と言っても闇雲に施策を実施すれば良い訳ではありません。理念やパーパスなどの企業の根幹思想があり、それに基づいて企画・実施しないと、企業の成長と従業員の活躍が合致しない結果になってしまいます。

株式会社RECOMOでは、理念から丁寧に会社づくりのサポートを行います。例えば、サービスの1つである「RECOMO X」では以下のようなサポートが可能です。

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RECOMO X」は、一般的な相談に乗るだけのコンサルとは異なり、客観的な視点を持ちながら組織の中に入り込み、二人三脚で組織開発に取り組みます。

組織開発のプロセスは1つずつ丁寧に進めていく必要があり、自社だけでは途中で挫折してしまうことも多いです。上手にパートナー企業と連携しながら、人的資本経営に取り組みましょう。